【王位戦第3局】藤井七冠の妙手「香車捨て」に佐々木七段は万策尽きる 対局室には「ボオー」と汽笛が
将棋の王位戦七番勝負の第3局(主催・神戸新聞社ほか)が7月25、26日に北海道小樽市の料亭湯宿「銀鱗荘」で行われ、藤井聡太七冠(21)が挑戦者の佐々木大地七段(28 )を131手で制した。これで対戦成績を3勝0敗とした藤井は、王位戦の4連覇 まであとひとつとなった。【粟野仁雄/ジャーナリスト】
予測通りの封じ手
藤井は21歳になって初めての対局で見事に勝利した。
佐々木は先手の藤井が得意とする「角換わり」を真っ向から受けて立ち、双方、銀を中央に繰り出す「腰掛銀」の様相になった。初日の序盤は、相手の様子を見る「手待ち」の場面も続いた。午前中に53手目まで進み、ここでようやく藤井が佐々木の歩に「4五歩」とぶつけて、戦端が開かれたかに見えた。
だが、午後からぱたりと手が止まる。
昼食を挟み1時30分に再開したが、佐々木が54手目で「同歩」としたのは2時33分だった。互いに前進させたはずの銀を引いたりもした。あまり手が進まないまま、61手目が藤井の「封じ手」になった。
今回は「明朝のお楽しみ」の要素はゼロだった。ABEMAで解説していた遠山雄亮六段(43)も「間違いなく歩を取ります。解説のしようがない」と笑った。確かに、藤井の香車の前に佐々木が打った「1八歩」を、香車で取る以外に選択肢はなかった。香車をタダ取りされて「と金」を作られては、さすがの藤井も危ない。藤井も「封じ手が失敗したかも」という心配はまったくなく、ぐっすり眠れただろう。
152分の大長考
佐々木は、歩で釣り上げた香車を狙って角を打ち込み、馬にする狙い。ここからの攻防で始まった2日目だが、佐々木が大長考する。藤井が65手目に「3三歩」と佐々木陣に攻め込んだ場面だ。初日も佐々木のほうが長考し、藤井より約30分多く持ち時間を消費していたが、今回、佐々木はなんと152分もかけてこれを「3一金」とかわした 。
難しい展開となった中盤だが、藤井が87手目に「4二銀」と打ち込んで一挙に攻めに出た。その後はじわじわと藤井が優勢を築く。一時はABEMAのAI(人工知能)評価値の佐々木の勝率が20%を下回った。しかし、佐々木は粘りを見せ、藤井の109手目「8七玉」あたりでは、AI評価値が双方50%となった。ところが、115手目の藤井の「4四香」から、再び大きく勝率が藤井に傾く。
この一手は、香車を捨てて「1一」に角を打ち、佐々木の馬をずらして、角の筋に持ってくるなどの狙いがある。ABEMAで解説していた井出隼平五段(32)も「考え着かない。そんなうまい手があるのかと思ってしまった」と驚きながら評価していた。
駒不足の佐々木は「7六」にいる藤井玉を仕留められないままだった。一方、藤井の8段目の飛車がよく効いていて、佐々木玉が入玉を狙って逃げてきても仕留められてしまう。結局、1筋からの打開を試みた佐々木の構想も藤井の巧みな対応で実らなかった。
だが、今回の佐々木は非常に粘った。最近の佐々木の投了の早さから、筆者が注目した場面でも、投了せずに粘っていた。藤井の131手目「3三銀」の王手で、ようやく「負けました」。午後7時を少し回っていた。
この日の昼食は、藤井が「にしんそば」、佐々木が「海鮮ちらし寿司」だった。相手が初日に注文したメニューをお互いに選んだ形だ。とはいえ、タイトル戦では相手が食事やおやつに何を注文したのかは対局中には分からないらしい。ひょっとすると、対局後の報道などで見て「うまそうだな、あっちにすればよかった。明日はこれにしよう」とか思ってのことなのだろうか。
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