コバエはなぜ腐った食べ物に集まるのか、なぜカロリーの高いものほどうまいのか 頭に浮かぶ「素朴な疑問」について考えてみた(中川淳一郎)

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 7月10日、豪雨に見舞われた九州北部で、筑後川水系の寺内ダムの水が緊急放流されました。すると、「そんなことをしたら川がさらに増水し、下流域が大洪水になってしまうではないか!」というネットの書き込みが登場します。

 書き込んだ人にとっては素朴な疑問なのですが、事情通は「ダムの水がたまり過ぎた分を流してるだけ。放流しなかったらダムが決壊し、被害は放流した場合とは比較できないほどひどいものになる」と解説します。

 書き込み者は「いや、素朴な疑問を書いただけだろ……」と思うでしょう。だから素朴な疑問というのは言いづらいものですが、あえて私も書いてみます。ネット検索すれば分かることなのですが、調べる前段階としての疑問です。

 夏になると毎年家の中のコバエに悩まされます。先日イカ釣りのため、久々に釣り道具を整えていたのですが、必要グッズを入れたポリ袋の中から猛烈な勢いでコバエが出てきた。やっちまった……。半年前、コンビニで餌用に買った焼きサバを約5cmほど残したまま、容器ごと残していた。サバは焦げ茶色で完全に腐敗し、そこにコバエが寄ってきて、さらにはその周辺に卵を生んだのです。

 ここで素朴な疑問ですが、「なんでコバエはこんなに腐ったものを食べても体調不良にならず、むしろ腐れば腐るほど引き寄せられるんだ?」です。人間がこの5cmのサバを食べたら間違いなく体に害がある。ネコでもこんなものを出したら「ニャー!」と怒った鳴き声をあげてプイと去って行くことでしょう。コバエとわれわれは何が違うのか?

 続く素朴な疑問は、「なんでカロリーの高いものほどおいしいのか」という件です。もちろん、年齢を重ねるにつれ、霜降り牛肉よりも赤身牛肉の方が好きになる、といった変化はあるものの、とはいっても赤身牛肉は野菜よりはカロリーは高い。この件については若干宗教的な話にもなってきますが、「神は快楽に伴うペナルティーを科し給(たも)うた」ということを考えてしまうのです。

 あとは業界人にとっては当たり前でも一般人にとっては不思議な素朴な疑問というものもあります。その一つが「最近のネットニュースのタイトルはなぜここまで分かりづらいのか?」。

 たとえば、6月14日のスポーツ報知電子版の記事タイトルは以下の通り。

〈【阪神】不振の近本光司、佐藤輝明、ノイジーに快音で快勝!西勇輝は12球団勝利〉

 固有名詞が五つあり、打者陣の活躍がメインの記事だと思うも、最後に「西勇輝は12球団勝利」という情報が加味される。一体主眼がなんなのかがまったく分からない。昔の感覚であれば、こうなります。

〈阪神、低調だった打線が爆発 10安打8得点で佐藤輝ら復調の兆し〉

 しかしそうではない。球団名に加え、ノイジー以外の日本人選手はフルネーム。どうやら昨今のネットニュース界隈はSEO対策(検索で優位に立つ対策)で「固有名詞をたくさん入れて検索にひっかかりやすくしたい」という事情があるようです。私は冒頭のダムの件と同様あくまでも「事情通」として言ってるだけなので、上から目線と思わないでくださいませ。

中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう)
1973(昭和48)年東京都生まれ。ネットニュース編集者。博報堂で企業のPR業務に携わり、2001年に退社。雑誌のライター、「TVブロス」編集者等を経て現在に至る。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』『ネットのバカ』『ウェブでメシを食うということ』等。

まんきつ
1975(昭和50)年埼玉県生まれ。日本大学藝術学部卒。ブログ「まんしゅうきつこのオリモノわんだーらんど」で注目を浴び、漫画家、イラストレーターとして活躍。著書に『アル中ワンダーランド』(扶桑社)『ハルモヤさん』(新潮社)など。

週刊新潮 2023年7月27日号掲載

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