「清か」「際やか」「匂やか」――「和語」をSNSで使って「ワンランク上の繊細表現」を目指そう

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 あくまで一般論ですが、「漢語」を使うと、意図がはっきり伝わりやすい一方で、ちょっと硬くて冷たい印象になりがちのようです。そこで、繊細なニュアンスを相手に伝えたいときは、語感が柔らかな「和語」を使うといいそうですが、いったい和語にはどんな言葉があるのでしょうか?

 人気評論家の宮崎哲弥さんの著書『教養としての上級語彙』(新潮選書)から、一部を再編集してお届けします。

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目にはさやかに見えねども

 上級語彙には大別して漢語系と和語系があるが、細(こま)やかな感受や生々しい感情を表出する言葉は和語に由来することが多い。逆に抽象的な概念を指示するような言葉はだいたい漢語系であり、和語には少ない。
 
 例えば「さやか」という形容動詞がある。『古今和歌集』の著名な歌、「秋来ぬと目にはさやかに見えねども風の音にぞおどろかれぬる」(藤原敏行)で知られている。「秋が来たと、はっきり目にはみえないが、風の音でそれにはっと気づかされた」という歌意である。

 この「さやかに」は古語「清(さや)かなり」の連用形だが、「清(さや)か」は現代でもよく使われる。

●さやか【清か/明か】……はっきりしているさま。明瞭である。さえて明るいさま。音声がさえてよく聞こえるさま。「星影をさやかに映す」「鐘の音のさやかな響き」
 
「さやか」の類語に〈けざやか〉がある。

●けざやか……はっきりしているさま。きわだっているさま。
 
 たとえば、辺見庸『水の透視画法』(集英社文庫)には、「けざやかに耀(かがや)くこの世の奥に妙な色が見えかくれするのは、なんだかけうとい。けうといものとも知らず、こぞって笑いさんざめくのは、なおのことけうとい」という一文がある。

 形容動詞では、他にも「やか」という語尾を持つ上級語彙がある。この「やか」は、いかにもそのような感じ、まことにそれらしいさまを示す。名詞、形容詞語幹、オノマトペ(擬音語)など状況を表す語に付いて、それに極めて近い状態、様子を伝える接尾語である。

 例えば「さわやか」「にぎやか」「鮮やか」「軽やか」などが代表的だ。また「濃(こま)やか」「細やか」も含まれる。さらに、次のようなものが挙げられる。
 
●なよやか……しなやかで、なよなよしているさま。ものやわらかで優美。「なよやかな身のこなし」

●きわやか【際やか】……きわだっているさま。くっきりと目立つさま。「〈蒼穹〉を背景に際やかな雪山がみえる」「際やかな辛口の酒」

●においやか/におやか【匂いやか/匂やか】……つややかで美しいさま。照り映えるように美しいさま。「匂やかに着飾った娘」
 
 いま使われている「匂い」のイメージにとらわれて、「香(かぐわ)しい」といった意味だろうと勘違いしがちだが、第一語義は視覚が感受したものを指す。すなわち「輝くように美しい」。第二語義として香しい状態、いい香りを感じるさまなどを載せている辞書もあるが、『広辞苑』は一貫して「美しくつやつや」の語釈しか掲げていない。

 これは、和語において「匂う」がもともとは視覚的イメージを表す語だったことに由来する。『広辞苑』(第7版)の「におう」の項には「『に(丹)』は赤色、『ほ』は穂・秀の意で外に現れること、すなわち赤などの色にくっきり色づくのが原義。転じて、ものの香りがほのぼのと立つ意」になったとの説明がある。「匂やか」にはこの「匂う」の古い言意が残存しているのだ。

 確かに、青空文庫にみえる「匂いやか」「匂やか」の用例のうちの多くがヴィジュアルな印象を伝えている。

《棚引く雲の匂やかに、はや暁の色染めて、東の空にほのぼのと、夢より綺麗な日の光り》(夢野久作『白髪小僧』)
※夢野久作は幾つかの筆名を使い分けていた。これは杉山萠圓名義の作。

《春の寒い夕、電灯の燦たる光に対して、白く匂いやかなるこの花を見るたびに、K君の悴の魂のゆくえを思わずにはいられない》(岡本綺堂『二階から』)
 
●みやびやか【雅やか】……上品で優美なさま。都(会)風に洗練された様子。「雅やかな装い」「雅やかな立ち居振る舞い」

《視た眼も舌の味いも、あっさりと品のよい、みやびやかで、どこか鄙びた珍らしい雑煮の椀を手にとりあげた》(岡本かの子『雑煮』)

「雅やか」の漢語的表現は「都雅(とが)」となる。
 
●とが【都雅】……洗練された上品さを持っていること。都(会)風の趣味のよさ。雅やか。「都雅な暮らし」「都雅を極める」
 
《初めて、典型的な支那婦人の都雅な美しさが匂いのように流れて来るのであった》(横光利一『上海』)
 
 やはり「雅やか」の方が柔らかく繊細な語感を帯びている。「都雅」はクリアカットではあるけれども、微妙なニュアンスが伝わらない。

 このように「やか」という接尾語が付く語(形容動詞)は、「まことしやか(=いかにもホントっぽい)」が典型的だが、それそのものの状態ではないけれど、いかにもそれらしい、というような、微妙な感応を指し示す。和語の強みというべきだろう。

※宮崎哲弥『教養としての上級語彙』(新潮選書)から一部を再編集。

デイリー新潮編集部

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