「人生の楽園」を夢見て“移住”の落とし穴 田舎暮らしで成功するのは“ハイスペック人材”ばかりの理由

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少ない職種

 だが、これはあくまでも転勤であり移住ではない。将来的には都会に戻ることが前提になっている。とはいえ、転勤期間中にその街を気に入り、人間関係が発展したら定年後は移住しても良いかもしれない。

 と、移住のポジティブな面を書いてきたが、ここからが本題。

 私は2020年11月に東京都渋谷区から佐賀県唐津市へ移住したが、正直、自分の職業がフリーライター・編集者でなかったら移住生活は長続きしなかったと思う。というのも、地方には都会ほど多種多様な仕事がないのだ。求人チラシを見るとスーパーやドラッグストアの店員、配達員、タクシー運転手、食品工場ライン勤務などは見つかるものの、都会ではすぐに見つかるような仕事は少ない。薬剤師や看護師のように資格を持った人であれば、ドラッグストアや病院の求人はあるが、資格がない人は当然無理。大工等の技術がある場合でも地元の工務店に何らかのツテがないと簡単には入社しづらい。

 また、都会ではよく見られるメディア関係の仕事、SE、プログラマー、ウェブサイト制作、各種デザイナー、コンサルタント、FPといった仕事の求人はなかなか見つけづらい。保険の代理店をやろうにも、地元の会社やフリーランスの人ががっちりと客を掴んでいるためそこに割って入るのは至難の業。仮に仕事を獲得できたとしても「あのヨソ者にオレの仕事を奪われた」などと恨みを買うこととなる。

周囲から孤立する悪循環

 幸いなことに唐津という街にライターはほとんどいないし、私の仕事の多くは東京発のため、地元のライターの仕事を奪っているという状況にはない。県庁による佐賀県PRのコンペに2回参加して2回仕事を受注し、佐賀新聞の連載を獲得できたが、地元の仕事はこれだけだ。

 本当にその土地でやりたいことと強い意志がない限り、やはり移住というのは難しいもの。私が楽しそうにしている様子を見て移住してきた人物は、農家でバイトをしたがすぐにやめてしまい、移住促進NPOの担当者に対して「こんな生活は想定していなかった! あなたがちゃんと仕事をしないからだ!」とキレたりもする。彼とは一度会ったものの、その後は会っていない。多分もうこの街にいないだろう。

 移住者の問題の一つは、「寂れた地方都市・田舎に住んであげている」というお客様モードにある。移住当初はNPOや市役所の人が歓迎会を開いてくれたりするかもしれないが、その後は自分の力で切り拓かなくてはいけない。そのためには上記【1】~【6】が必要となってくるのである。それだけハイスペック人材でなくては、移住はうまくいかない。お客様モードが抜けないと、「これだから田舎者は……」といった愚痴ばかり言うようになり、周囲からさらに孤立するという悪循環に陥っていく。

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