フランス暴動から1カ月… 少年遺族より「射殺した警官」支援に寄付が集まる国民感情

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被害者は誰なのか

 通常「被害者」に集まるはずの寄付が「加害者(の家族)」により多く集まったのはなぜでしょうか。前提として、寄付プロジェクトを立ち上げたメシハ氏に知名度があり、政治的に右寄りの人たちからの支持があったのも事実です。それ以上に、警察へ敬意を抱き、秩序を守る彼らを支えたい、という人たちの存在があるように感じます。

 デモや暴動で警察と市民が衝突することがよくあるフランスですが、国民の根底には警察へのリスペクトがあることが、寄付の内訳からもみてとれます。

 160万ユーロを集めた寄付のうち、最も高額の寄付者でも3,000ユーロ(約46万8,000円)に過ぎず、1,000ユーロ以上の寄付をした人は14人のみ。そして寄付件数は合計8万5,093件にも上ります。警察関係者や右派の人びとが賛同者にいると想像できますが、彼らのような人びとだけではない、今回の事件を受け警察官をサポートしたいと考えた篤志家が8万人以上いることになります。

 日頃の暴動への対応などでは非難されることも多い警察ですが、じつは彼らを支持するフランス国民も多くいることがわかります。今回の事件でも「社会の治安維持のために職務を行っていた警察官が、治安を乱す人のせいでこのような状況になっているのは納得がいかない」というわけです。とはいえ、実生活でこうした意見を述べると眉を顰められるため、オンラインでの寄付という形で支持したということでしょう。

 メシハ氏は警察官について「任務遂行のために(罪に問われるという)高い代償をはらうことになった」と表現しています(カッコ内は筆者)。同様に「警察官も被害者である」という感情を持つ人も多くいるということです。

 ナエルさんが警察に止められた理由が、無免許(レンタカーを借りており偽造免許証を持っていたという指摘もあります)で走行を禁止されている車線を高スピードで走っていたため、という点も警察官への支持を勢いづかせたかもしれません。

 ナエルさんはこの事件の3日前にも同じ場所で制止に従わず拘留されていて、9月に裁判を受ける予定でした。そして昨年には別の法順守拒否により少年裁判官に引き渡されていることも報じられています。ナエルさんがこのような運転の常習者で、顔が知られていたという証言もあります。

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