賞金は最低額でもゴルフ界の頂点…今年の全英オープン毀誉褒貶だった

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 9年ぶりにロイヤル・リバプールGCが舞台となった今年の全英オープンは、36歳の米国人、ブライアン・ハーマンのメジャー初優勝で幕を閉じた。素晴らしい優勝物語が繰り広げられた一方、その裏では、主催者であるR&A(ロイヤル・アンド・エンシェント・ゴルフ・クラブ・オブ・セント・アンドリュース)のリーダーシップを賞賛したり、批判したり、侃々諤々の議論も展開された。【舩越園子/ゴルフジャーナリスト】

「ゴルフ界の頂点」の意味とは

 身長170センチの小柄なレフティのハーマンは、PGAツアーで過去に2勝を挙げていたが、最後に勝利したのは6年も前の2017年。飛距離ランキングでは142位前後を行き来している。そんな「飛ばないハーマン」が、ジョン・ラームやジェイソン・デイといったメジャー覇者や飛ばし屋たちを抑え、2位に6打差をつけて圧勝。その展開は、飛距離偏重傾向が著しい現在のゴルフ界にとって大きな驚きとなり、刺激にもなった。

 開幕前の会見でR&Aのマーチン・スランバース会長は、今年の賞金額を誇らしげに発表した。賞金総額1650万ドル、優勝賞金300万ドル。昨年の賞金総額1400万ドル、優勝賞金250万ドルから一気に高額化し、全英オープン史上最高額となった。

「われわれR&Aは、このジ・オープン(全英オープン)を、世界のゴルフ界の頂点にとどめておきたい」

 スランバース会長の「頂点にとどめておきたい」という言葉は、すでに全英オープンが頂点にあるという自負を示唆していると思われ、そこに異論を唱える人はいないだろう。

 しかし、「ゴルフ界の頂点」の定義は定かではない。「メジャー4大会の頂点」が「ゴルフ界の頂点」というのが、最も理解しやすい考え方だろう。それならば何をもって「メジャー4大会の頂点」と見なすのか。

 その基準や判断の1つとして、現在のゴルフ界には「賞金」を重視する傾向が強く見られる。実際、高額賞金が用意された大会にはビッグネームがこぞって出場するため、「高額賞金の大会は一流選手が集まる最高の大会」と思われがちである。

実は最低額の賞金

 昨年、サウジアラビアの政府系ファンド「PIF(パブリック・インベストメント・ファンド)」の支援を受けるリブゴルフが創設されたことで、賞金額を競い合う「マネー戦争」は一気に激化した。

 リブゴルフの破格の賞金に対抗するため、この2年ほどの間、PGAツアーも必死で賞金を高額化させてきた。そしてメジャー4大会は、メジャーの威信にかけ、PGAツアーのレギュラー大会の賞金を上回るビッグプライズを用意しようと躍起になってきた。

 その激化ぶりには本当に驚かされる。というのも、スランバース会長が発表した今年の全英オープンの賞金額は、大会史上最高額にもかかわらず、今年の他のメジャー大会と比べると「最低額」なのだ。

 今年のマスターズは、賞金総額1800万ドル、優勝賞金324万ドル。全米プロは、賞金総額1750万ドル、優勝賞金315万ドル。全米オープンは、PGAツアーが今季から新設した「格上げ大会」と同額で、賞金総額2000万ドル、優勝賞金360万ドルだった。

 それらと比べると、全英オープンの賞金総額1650万ドル、優勝賞金300万ドルは、最も低い額なのである。

 しかし、それを承知の上で、スランバース会長は「全英オープンこそがゴルフ界の頂点」と言い切った。その意味は「賞金額がすべてではない」ということ。そして、ゴルフ界の未来、とりわけメジャー大会のこれからを考えたとき、賞金額ばかりを競い合い、どこまでも高額化していくことは「サステイナブルではない」と声を大にした。

 だからこそ、全英オープン主催者でありゴルフ界のリーダーであるR&Aは、あえて賞金額では他のメジャー大会と競わない姿勢を打ち出し、それこそが真のリーダーが取るべき行動だと主張した。

 そんなR&Aの勇気ある姿勢に、ゴルフファンや関係者、他のフィールドからも賞賛の声が寄せられた。

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