欧州で進むトロリーバスの復権 背景に環境問題が(古市憲寿)
欧米の街中に電線なんてないのに、日本の空は電線と電柱ばかりで見栄えが悪い。そんなことをしたり顔で言う人がいる。確かに欧米の無電柱化率は高く、特に大都市ロンドンやパリでの割合は100%だ。
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だが欧米の空に全く電線がないというのは言い過ぎである。むしろ最近、積極的に電線を架けようという動きさえ存在している。
理由はヨーロッパが狂信的に進める地球温暖化対策だ。都市から自家用車を排除して、公共交通機関を拡充しようとしている。そこで白羽の矢が立っているのが電気で走るトロリーバスや路面電車なのだ。
先日、イタリアに行って驚いた。まあまあ本格的にトロリーバスが街中を運行しているのである。「週刊新潮」に若い読者はいないと思うので説明不要だろうが、トロリーバスとは架線から電気を取って走る、電車とバスを合わせたような乗り物。だからバスの経路には当然ながら、電線が張り巡らされている。
イタリアでは、教会などの歴史的建造物の前に、じゃんじゃん架線が引かれていた。特に駅前ともなると、折り返しのため電線が複雑に入り組んでいる。ボローニャなど、まるでアジアに来たかのような電線の多さだった。正直、見栄えはそれほどよくないと思う。
だが騒音や公害の発生源になりにくく、低コストで安定した技術という点が評価されて、トロリーバスには更なる需要増加が見込まれているという。もはや何よりも環境が優先される時代なのだろう。
ヨーロッパでは、イタリアの他、スイスや東欧などで多くの路線が現役だ。特にウクライナは数十の路線が活躍するトロリーバス大国である(ただし複数の路線が戦争の影響で運行停止を余儀なくされている)。
古くからある路線を残している場合がほとんどだが、スウェーデンのランズクルーナ・トロリーバスのように、環境に優しいことを理由に2003年に導入された事例もある。
日本でも戦後復興期にはトロリーバスが全国で見られた。まだ石油不足に苦しむ中、路面電車よりも安価なトロリーバスが東京、大阪、横浜などの都市部を中心に普及した。だが自動車や地下鉄に代替される形で続々と廃止、今や立山黒部アルペンルートを走るトロリーバスが最後の路線となっている。
その日本最後のトロリーバスも、まもなく廃止となるようだ。修理部品の調達が難しくなっていて、2025年度以降に電気バスに置き換わる予定だという。2018年には黒部ダムと扇沢を結んでいたバスも廃止されているので、まもなく日本から全てのトロリーバスが消えることになる。
日本で未来の交通といえば、自動運転と空飛ぶ車ばかりが話題になる。だが数十年後にはトロリーバスが大復活を果たしているのかもしれない。もしくは極東で有事が起これば半導体不足は必至だ。「有事に強い乗り物」として、半導体がいらない人力車や馬車が見直されているのかも。