「指先の黒インク」が無言の圧力になるカンボジア選挙事情 “投票率84%”に5つのカラクリ

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 7月23日、カンボジアの下院(定数125)の総選挙が行われた。その日の夕方、与党・人民党を率いるフン・セン首相(70)は、早々と勝利宣言。「投票率は前回の83%を上まわる84%」と胸を張った。

 しかしフン・セン氏(70)は、この84%の投票率を得るために、国民に5つの投票圧力をかけていた。

 ひとつ目は5月、最大野党のキャンドルライト党の選挙参加資格をはく奪した。理由は書類の不備だった。

 フン・セン氏に批判的な人々は投票先を失うことになる。そこで野党側は投票の棄権を呼びかけはじめる。

 これに対してふたつ目の圧力をかける。投票の棄権を扇動した人に対する罰金制度をスピード成立させた。罰金は500万リエルから3,000万リエル(約17万円から約102万円)。同時に投票を棄権した人は、次回の選挙で立候補できない法案も可決した。

有権者への個別訪問

 3つ目は選挙日程。投票は住民票を置いている土地に限られる。プノンペンや工業団地で働く若者の多くは田舎に住民票がある。投票日の前後を休日にした。

 4つ目は投票に誘導する空気づくりだった。投票権の確認を名目に個別訪問をはじめる。コンポンチュナン州で農業を営むKさん(58)はこういう。

「人民党の人が3人でやってきて、説明を受けました。選挙に行かないと罰金だっていわれました」

 罰金は投票の棄権を呼びかけた人たちが対象だったが、Kさんは投票に行かないと罰金と理解していた。

“指先”が無言の圧力に

 この空気は、指に塗るインクにまで波及する。カンボジアでは二重投票を防ぐために、投票した人は人差し指に黒いインクを塗る。これはいくら洗っても10日間ぐらいは消えない特殊なもの。村のなかでは、投票後、指のインクのチェックがあるという噂が流れたという。

 これまでの選挙でも、この指に残るインクは無言の圧力になったという。

 プノンペンで働く30歳代のFさんはこういう。

「選挙が終わって会社に行く。人差し指の先が黒くないと周りからなにかいわれそうな雰囲気がありました。打ち合わせのときは、無理と人差し指を見せる人もいる。ファイスブックに顔の前に指を差しだす写真をアップする人も多い」

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