「日本でやったら一発退場……」 ミック・ジャガーらロック界の伝説たちの「不道徳」エピソード集

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日本なら「一発退場」必至

 ミュージシャン、俳優、タレント、スポーツ選手など人に見られる仕事に就く人たちがスキャンダルで受けるダメージが大きくなっている。日本では違法薬物に手を染めたために、過去の作品の販売が見合わされることも起きた。不倫が理由で活動自粛や謝罪に追い込まれたケースも多い。

 もちろん海外でもこの種のことはあるけれど、日本は顕著だ。ごく個人的な問題でも自粛や謝罪につながりやすい。

 こうした日本の状況しか知らずに海外アーティストの自伝や伝記やインタビュー記事を読むと驚かされる。

 その多くが赤裸々。「えっ、そんなこと活字で残しちゃっていいの?」と心配になるレベルのエピソードが語られている。

 仲間の妻や恋人に次々と関係を迫る、バンドメンバー全員でファンをホテルの部屋に連れ込む、薬物やアルコールに溺れて治療施設に何度も入所する、空き地で麻薬を栽培する……。もしも現在の日本人アーティストならば、活動の場から「一発退場」を宣告されかねないレベルだ。

 それでも、欧米のロック・スターたちは性に関することやドラッグ依存の話も正直に告白している。

 筆者は音楽ライターとして、約300人の日本人アーティストをインタビューし、アーティストたちの書籍の構成にも携わってきた。しかし、私的な話を明かしたものは皆無である。書かない。インタビューの過程ではそれなりに危ない話を打ち明ける人もいないわけではない。でも、活字にしてはいない。

 国や地域によってアーティストという存在の位置付けが異なるのだろう。

 どんな分野でも、成功したアーティストは突出した才能を持っている。しかし同時に、備わっている才能と同じかそれ以上に、社会的に欠けているところも見える。欠けているというよりも、その他大勢の人との“違い”といったほうが正しいかもしれない。でも、その違いにこそ魅力がある――こんな考えが欧米ではある程度共有されているのではないか。

 確かに彼らはおかしな人たちかもしれない。家族や友人や隣人にいてほしくないケースは多い。しかし、だからこそ、私たちは名曲を楽しめる。ビートルズやローリング・ストーンズやエリック・クラプトンの数々の名曲がこの世からなかったら、何とつまらないことか。

4000人と関係したミック・ジャガー

 拙著『不道徳ロック講座』では、突出した才能を持つ世界的なアーティストたちの突出したエピソードを辿った。その際、基本的には本人の述懐をベースとすることにしている。つまり自伝や本人公認の伝記、インタビューなどに依拠するということだ。雑誌のスキャンダル記事などには拠らないこととした。

 それでも十分すぎるほど刺激的で規格外のエピソード揃いとなった。そのいくつかをご紹介してみよう。

 恋愛を報じられた人数でいえば、トップクラスなのはローリング・ストーンズのミック・ジャガーである。

 アニタ・パレンバーグ(女優。キース・リチャーズの元内縁妻)、アンジェリーナ・ジョリー(モデル)、エリック・クラプトン(ギタリスト)、カーラ・ブルーニ(モデル。エリック・クラプトンの元彼女)、デヴィッド・ボウイ(ロックミュージシャン)、リンダ・イーストマン(写真家、ミュージシャン、ポール・マッカートニーの元妻。ミックが関係したのは、リンダがポールと結婚する前)、リンダ・ロンシュタット(シンガー)……。

 これらは、ミック・ジャガーとの関係が報じられた相手の一部。お気づきの通り、性別を問わず、バラエティに富んでいる。

 その多彩かつ豊富な恋愛遍歴は彼の伝記『ミック・ジャガー ワイルド・ライフ』(クリストファー・アンダーセン著/岩木貴子、小川公貴訳/ヤマハミュージックメディア刊)には書かれている。この書籍は自叙伝ではないものの、本人への取材はもちろん、友人や家族、元妻、愛人らの証言を盛り込んだ伝記である。暴露本ではなく、ほぼ本人公認の伝記と言っていいだろう。私生活をここまでオープンにしているミック・ジャガーをリスペクトすらしてしまう。この本のオビでは、ミックの浮気相手の人数を「4000人」と記してある。

 それだけの人数と関係があるため、彼の相手を辿ると、ロック界のある種の相関図が浮かび上がることとなる。

友達の彼女は俺の彼女

 子供の頃から今日に至るまでの友人であり相棒でもあるキース・リチャーズの恋人に手を付けたこともある。それを知ったキースは激怒したという。しかし、そのキースもまた、ストーンズの初期メンバーであるブライアン・ジョーンズから恋人を奪っているのだ。他人のことを言えた義理ではないというツッコミが入りそうだが、それはキースも承知で、次のように自伝で率直に告白している。

「ミックが同じことをしないなんて思っちゃいなかった」(『キース・リチャーズ自伝 ライフ』キース・リチャーズ著/棚橋志行訳/楓書店刊)。

 また、ミックの彼女の間男となったこともあるという。

「じつを言うと、ミックが戻ってきて、あわてて家から飛び出したことがある。一回だけだ。暑くて、汗だくだった」(同)

 若気の至り、で片づけられないのはミックの場合、中年になってからもこういうエピソードに事欠かないところだろうか。

エリック・クラプトンの心配が現実に

 彼に恋人を奪われたことを自伝で告白しているのはエリック・クラプトンだ。1990年、40代半ばのクラプトンが交際していたのは当時20代前半のモデル、カーラ・ブルーニである。

 ニューヨークで暮らしていたクラプトンは彼女を連れ、よりによって、アルバム『スティール・ホイールズ』のツアーでニューヨークにやって来たストーンズのライヴを観に行ってしまう。そこで、クラプトンはカーラがミックの好みのタイプであることに気づく。美貌、若さ、経済力を備えた女性にミックは目がない。ちなみにミックもクラプトンと同年代である。

 クラプトン自身、ジョージ・ハリスンから妻を奪った過去があるのは有名な話である。

 だからこそ、今度は自分がそんな目に遭うことを恐れたようだ。

「お願いだよ、ミック。この娘はやめてくれ。恋しているらしいんだ」

 バックヤードでクラプトンは自分の思いをミックに伝え、手を出さないでほしいと懇願したことが『エリック・クラプトン自伝』(エリック・クラプトン著/中江昌彦訳/イースト・プレス刊)で語られている。

 しかし、時すでに遅し。

 ミックが言うことを聞くはずはない。しかも、カーラはミックのファンだった。クラプトンは分が悪い。

 タイミングもよくなかった。クラプトンがボツワナ、ジンバブエ、モザンビークをまわるアフリカツアーに出発する前だった。

 クラプトンは不安を抱えながらツアーに出かける。そしてアフリカから戻ると、カーラから冷たい扱いを受けるようになった。彼女はすでにミックと付き合い始めていた。

 人のいいクラプトンは、こんなときでもストーンズのショーにゲストで参加する。深く傷つきながらもギターを弾いている。

「その年の残りは、強迫観念にとらわれていて、ストーンズのコンサートにゲストで出た時は、彼女がどこかに潜んでいることがわかっていたので、それがぞっとするほどひどくなった」(『エリック・クラプトン自伝』より)

不道徳な人たち

 こうした複雑な相関図に、嫌悪感を持たれる方もいるかもしれない。

 ただ、英語圏のアーティストたちは“音楽の国”とでもいうべき、一つのコミュニティで生きているように思う。そのなかで、ミュージシャン同士でチャートを競い合い、共演し、リスペクトし、軽蔑し、嫉妬し合って共存している。そして、ときには女性を奪い合い、ドラッグやアルコールでダメージを受けた同業者に手を差し伸べてキャリアを重ねていく。

 ミュージシャンが抱えている苦悩は、ミュージシャンでなければ理解できないことが多い。わかり合えるから、ある時期仲たがいしても、恋人や妻を奪われても、時を経ると何事もなかったかのように共演するのかもしれない。

 ここで紹介したエピソードに興味を持ったならば、出典となっている自伝や伝記をぜひ読んでいただきたい。ここでは彼らの「政治的に正しくない」振る舞い、不道徳な行状に注目したわけだが、もちろん音楽そのものに関する真面目な話も多く書かれている。

 そして、アーティストたちの音楽を聴いていただきたい。人物や作品の魅力をより深く味わうことができるはずだ。音楽は生きもの。つくり、歌い、演奏するアーティストの人間性が音になっている。

 もちろん、さまざまなエピソードから、「見たくもない」「聴きたくもない」と忌み嫌うのも自由である。しかし、彼らの「不道徳」な振る舞いを理由に、素晴らしい作品を味わう機会が減るとすれば、もったいないことだと個人的には思う。

神舘和典(こうだてかずのり)
1962年東京都出身。雑誌および書籍編集者を経てライター。政治・経済からスポーツ、文学まで幅広いジャンルを取材し、経営者やアーティストを中心に数多くのインタビューを手がける。中でも音楽に強く、著書に『新書で入門 ジャズの鉄板50枚+α』など。

デイリー新潮編集部

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