シンガポールでは激減…中国人観光客が世界各地から消えている理由
「ゼロコロナ後に経済がV字回復」は期待外れ
国民の間で広がる先行き不安の原因は、中国経済の不調だ。
中国政府が7月17日に発表した今年第2四半期の国内総生産(GDP)は、前年比6.3%増だった。第1四半期の4.5%増より伸び率は拡大したが、昨年春に上海がロックダウン(都市封鎖)した反動に過ぎない。前期比の増加率は0.8%と第1四半期(2.2%増)から鈍化しており、ゼロコロナ後に経済がV字回復するという期待はしぼんでいる。
不振の最大の要因は、不動産市場の低迷だ。6月の不動産販売(床面積ベース)は前年比28.1%減で、5月より大幅なマイナス(19.7%減)となった。輸出も低調だ。6月の輸出は前年比12.4%減と、落ち込み幅は新型コロナのパンデミック初期以来の大きさだ。
投資や輸出に頼る形で高成長を続けてきた中国経済には、大きな弱点がある。国内総生産(GDP)に占める個人消費の割合が著しく低いのだ。米国が70%、日本が53%であるのに対し、中国は40%にとどまっている(7月15日付日本経済新聞)。
中国経済が長年にわたって過少消費(貯蓄過剰)の状態だったのは、公共サービスや社会保障が未整備なため、国民の多くが学費から定年後の生活費まであらゆる出費に備えてお金を貯め込まざるを得なかったからだ。
加えて、昨今の市場の低迷により、不動産価格の値上がりで得られる収入もあてにできなくなっており、将来に備えた貯蓄は増える一方だ。
個人消費に弱みを抱える中国経済が数十年ぶりの苦境に
中国政府は7月18日、今後の成長エンジンとして期待される個人消費を喚起する計画を公表したが、エコノミストからは「減速する景気を意味ある形で押し上げるには力不足だ」といった指摘が出ている。
最も心配なのは、個人消費を牽引する役割を担う若年層の経済的苦境だ。
6月の若年層(16~24歳)の失業率は21.3%となり、過去最高を更新した。物質的な成功を求めず、最低限の生活に甘んじる「寝そべり族」が、今や中国の若者のニューノーマルになりつつあると言っても過言ではない。
このため、中国の6月の消費者物価指数(CPI)は前年比で横ばいになっている。世界経済がインフレ圧力に直面しているのにもかかわらず、である。
世界各地の観光地から中国人の姿が見えなくなっているのは、個人消費に弱みを抱える中国経済が数十年ぶりの苦境に陥っていることの表れだ。中国頼みだった世界経済は今後、強烈な下押し圧力を受けてしまうのではないだろうか。
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