花巻東・佐々木麟太郎だけではない…IWATEがドミニカ、ベネズエラ並みにメジャースカウトから注目されているのはなぜか
なぜIWATEなのか
大谷のような天才プレーヤーを育てるメソッドはない。世界中、どこを探してもないだろう。しかし、岩手県に関して言えば、天才が出現したときも対応できる野球環境は整っているのかもしれない。
「花巻東の野球部寮にはウェイトトレーニング・ルームもあり、専門のトレーナーも待機しています。ウェイトトレーニングに関しては、研究しなければならないことはまだありますが、まず、ケガをさせないこと。そして年齢だけではなく、体型や骨密度などによって練習メニューが異なってきます。『全員、100回やれ』みたいな乱暴な指導はされていません」(高校野球担当記者)
花巻東の佐々木洋監督は「9×9マス」のマンダラチャート表を使い、「夢を達成させるためには何が必要か」を各自に考えさせ、菊池、大谷を育ててきた。
マンダラチャートとは、事業の目標達成を近づける際などに使用されるフレームワークのこと。「9×9=81マス」のフレームの中心に核となる目標を記載。それに関連する要素を周囲のマスにメモしていき、81マスの全てを埋めることで全ての情報の整理や、アイデアの発見などにつながるとされている。
それを高校球児に使わせた目的は、「なぜ、この練習をしているのか」を考えさせるため。また、つらい練習でも“夢への階段を上っている途中”と前向きに解釈できる。
「佐々木監督はアイデアマンでもあります。神奈川県の横浜隼人高校でコーチをしていたころから、たとえば守備練習で、送りバントのボールを捕手が処理して一塁に送球する際、本塁と一塁の間に畳1枚ほどの大きさのネットゲージを置くのです。それは、試合本番で打者走者が邪魔になって悪送球するミスを防ぐためです。ボールを真っ直ぐ回転させる腕の振りを覚えるため、500mlのペットボトルでキャッチボールをさせていました。学校名が全国区となった昨今では、レベルの高い球児が集まってきたので実践的な練習がほとんどとなりましたが」(前出・同)
また、佐々木朗希を育てた大船渡高校の国保陽平監督(現・盛岡第一校)は、米独立リーグを経験するなど異色の経歴でも知られている。19年夏の岩手県決勝戦で「故障に繋がりかねない」とし、佐々木朗希を投げさせなかった采配には批判的な声もあったが、今日の活躍を見ると、エースを休ませた選択は正しかったと言わざるを得ない。
「朗希の弟・伶希が昨秋から本格的に投手の練習を始めました。それまでは俊足強肩の内野手でしたが、チーム事情で投手に転向しました。球速は130キロ台、でも、低めを丁寧に突いていくタイプです」(前出・同)
速球王だった兄とは対照的である。大船渡の監督は新沼悠太氏に代わったが、その球児に適した指導をし、個性や長所を伸ばしていく指導は受け継がれているようだ。
また、岩手県の甲子園での成績だが、09年に花巻東がベスト4に進出するまでは初戦や2回戦での敗退ばかりだった。新しい考え方が受け入れやすい状況にあったとも言える。近年では中学校が「軟式」ではなく、硬式の野球部を持ち、私営のクラブチームの全国大会にもエントリーするようになった。この硬式ボールでの中高一貫の部活動もプラスに転じているようだ。
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