娘の大学合格を確認した晩、スナック勤務の不倫相手と駆け落ち…49歳男性が結婚生活に感じていた違和感の正体
娘の大学合格を知ったその晩に…
志帆さんに「ふたりでどこかに行こう」と忠士さんは言った。そんなことができるのと志帆さんは目を丸くした。
「何もかも捨てる。すべて失う。それでもいいかと言うと、志帆は大きく頷きました」
黙って家を出てしまおう。そう思ったが、娘の大学受験が迫っていた。せめて合否だけでも知りたい。父親としての自分の最後の務めだと思った。
「娘が第一志望の大学に受かったと知ったその晩、志帆と待ち合わせて最終の新幹線で西へと逃げました。北に行かなかったのは真冬で寒かったから。案外、そんなものですよね」
携帯電話は切った。いずれ携帯は捨てるつもりだった。妻に一言も残さなかったのが心残りではあったが、未練は断ち切りたかった。
「とりあえず西日本の町にたどりついて、ふたりで住み込みで働きました。その後、僕の本来の職人仕事ができる場が見つかった。志帆は昼間、喫茶店で働いていました。ふたりきりで小さなアパートに住んで、ままごとみたいな生活が始まった。妻の実家みたいな広い家じゃないけど、なんだか毎日が幸せでした」
ふたりで缶ビールを分けあって飲み、今日あったことを話しながらクスッと笑う。そんな生活を忠士さんは気に入っていた。ところが2年ほどたったころ、同業だからだろうか、妻の父親の名前が職場で出たため、忠士さんはびっくりして職場へ行く気がなくなってしまった。
「たまたまそこにいた人が、昔、義父と一緒に働いていたことがあったらしくて。驚きました。見つかるに違いないと思って、田舎の親が倒れたと嘘をついて職場を辞めました」
さらに西へ行こうかと思っていたが、志帆さんが「関東に戻ろう」と言い出した。確かに首都圏のほうが仕事も見つかりやすい。妻や義父母に見つかったら、そのときはそのときで腹をくくろうと彼は決めた。
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