娘の大学合格を確認した晩、スナック勤務の不倫相手と駆け落ち…49歳男性が結婚生活に感じていた違和感の正体

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新人の「志帆さん」

 娘が高校に入学してしばらくたったころのことだ。例のスナックに、新人の女性が入ってきた。

「ママの知り合いだと言っていましたね。志帆と名乗っていました。30歳くらいかな、どこか寂しげで憂いのあるきれいな人で口数も少なかった。彼女が早めに引き上げたときに聞いたら、『あの子も、あんまりいい環境で育ってない子よ。だからここに来たの』とママは寂しそうに言いました。仕事はテキパキするし気配りもできるんだけど、話すのは得意じゃないみたいでね。でもしばらくすると慣れてきたのか、人の話をちゃんと聞いて相づちを打つくらいのことはできるようになりました」

 彼女なりのよさが少しずつ表れてきた。どんな話にも耳を傾けて共感してくれるのだ。彼女目当ての客も増えていった。

「あるときママが風邪をひいて、志帆がひとりで店にいたことがあったんです。その日はなぜか客も少なくて、僕はカウンター越しにずっと彼女とぼそぼそとしゃべっていました。お互いに口がうまいわけじゃない。それなのになんだか温かいものが流れている。そんな不思議な経験でした」

 それ以来、志帆さんも忠士さんに心を許したようで、店を訪れると笑顔を見せてくれた。他に客がいても、まずは忠士さんと二言三言交わし、ホッとしたように他の客と話すのだ。忠士さんは徐々に志帆さんが気になってたまらなくなった。

「とはいえ、彼女のような若い女性が僕に関心を示すはずもない。僕は彼女の父親的存在になれればそれでいい。そんなふうに思っていました」

「あれが初めての恋だった」

 ママも志帆さんに全幅の信頼を置くようになったのだろう、ときおり彼女に店を任せるようになった。

「志帆とふたりきりになったことがあって、またぽつりぽつりと話しているうちに『今日はもう看板にしちゃおうかしら』と彼女が言い出して。『ふたりでゆっくり飲みません?』って。うれしかった。そしてその晩、彼女とホテルに行ってしまったんです」

 薄暗い店内でふたりきりで話しているうち、彼は彼女への気持ちを止められなくなっていった。彼女に打診すると、彼女は何も言わずにしなだれかかってきた。だから彼は決断したのだ、彼女と深い関係になろうと。

「あれが初めての恋だったんでしょうね、僕にとって。志帆と体を合わせると、彼女の思いが一気に僕に流れ込んでくるような気がしました。こういう関係があるんだとびっくりしたし、彼女も『私たち、元はひとりだったのかもね』と言いました。分身みたいな気がしたし、互いの心身が一体化したような気もした。もう離れられない、離したくないと思いました」

 家族の目、店のママの目を盗んで、彼は志帆さんのアパートに通った。だが会えば会うほど好きになる。離れているのがつらい。1年ほど人目を忍んで会い続けたが、あるとき、店のママから「あなたたち、大丈夫?」と言われた。

「妻や義父母にバレるのも時間の問題だろうと思いました。そのころ家の中は娘の大学受験一色で、みんな娘に気がいっていたけど、いずれバレるに決まっている」

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