暴力団と対峙した2人のエリート警察官僚がまさかの宮内庁幹部に…彼らが抱える意外な悩みは

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「君の使命は工藤會の壊滅だ」

 吉田氏は警察の王道とされる刑事・警備の両部門を極めた稀有な存在として知られる。刑事部門では、2006年に宮崎県警本部長に就任後、官製談合事件の捜査指揮を執って競売入札妨害容疑で県知事を逮捕、「知事のクビを取った男」として刑事警察のエースとの高い評価を得た。

 08年に警察庁捜査一課長、11年には警視庁刑事部長となり、人気漫画「黒子のバスケ」の著者ほか関係者を脅迫した事件など、話題性のある難事件を解決に導いた。当時、私の取材に吉田氏は「捜査員たちの努力の賜物」と謙遜していたが、着実な捜査指揮で知られる。また、警備部門では、07年に警察庁警備課長、10年からは全国警察の警備・公安部門の司令塔である警察庁警備企画課長を歴任した。

 そして15年、福岡県警本部長になると、前任者から「君の使命は工藤會の壊滅だ」と告げられ、頂上作戦を先導した。国税局と連携して“上納金”を個人の所得と捉える全国初の手法により、工藤會の総裁・野村悟 被告(死刑判決で控訴中)を所得税法違反(脱税)容疑で逮捕した。

 同年5月には記者会見で、組員や組関係者に「勇気を出して決別して」との異例の呼びかけをして話題にもなった。そして17年から首都を所管する警視庁のトップ、第94代警視総監を務めた。

 一方の野村護氏は、20年に警察庁組織犯罪対策部長(旧暴力団対策部長)に就任。在任中には工藤會の本部事務所を解体させ、特定抗争指定暴力団・山口組から喧嘩別れした同神戸山口組から、井上邦雄組長の“出身母体”で、かつては「山健にあらずんば山口にあらず」とまで言われた山健組が離脱、神戸側は急速に縮小する。

 21年に福岡県警本部長となり、8月に工藤會の野村被告が死刑判決を受けると「 判決はあくまでも通過点として、工藤會が壊滅に至るまで、いささかも手を緩めることはない」とのコメントを発表した。22年には激しく対立する山口組と神戸山口組の“主戦場”である大阪府警本部長に着任した。

 在任中、宅見組も神戸山口組を脱退し、神戸側の弱体化は決定的となった。宅見組は山口組ナンバー2で、1997年に暗殺された宅見勝 組長が創設した屈指の有力団体だった。2団体の相次ぐ脱退には、対立抗争防止を差配した野村氏の功績も無視できまい。

 そんな元警察官僚2人は、ともに東大法卒。2大都市・東京と大阪の警察組織トップに上り詰めたエリートだ。冒頭で紹介した現職警察幹部の「ご本人たちも、まさかここまで(暴力団対策とは)畑違いの仕事を任されることになるとは」というのも大いに頷けよう。

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