【らんまん】田邊教授の若妻を演じる23歳「中田青渚」 意外な理由で芸能界入りした実力派だった
微妙な感情を伝える演技で2021年に大飛躍
2020年7月公開の映画「君が世界の始まり」も記憶に残る。大阪の隅っこにある寂れゆく町を舞台に、それぞれ複雑な感情を抱く高校生たちの“希望”と“絶望”の行き交う青春模様を描いた作品だ。
彼女が演じたのは、主人公・縁(松本穂香)の親友・琴子。授業をしょっちゅうサボっては旧講堂の地下室でタバコを吸い、彼氏を取っ替え引っ替えするという、自由奔放な高校2年生だった。
破天荒で周りを巻き込む台風の目のようなタイプで、口も態度も悪い。一歩間違えれば嫌なキャラクターにもなりうる存在だが、そうならなかったのは縁と琴子の友情がしっかりと描かれていたからだろう。他人の目を気にしなさそうな琴子だが、穏やかな性格の縁が近くにいるからこそ、かなり大胆に自由にのびのびといられる。そんな琴子を生き生きと演じ、強いインパクトを残したのである。
そしてこの翌年、中田は大きく飛躍する。今泉力哉監督作の「あの頃。」(2021年2月公開)と「街の上で」(同年4月公開)、そしてウエダアツシ監督作の「うみべの女の子」(同年8月公開)の演技が評価され、第43回ヨコハマ映画祭最優秀新人賞を受賞したのである。
特に印象的だったのは「街の上で」だ。自主映画への出演を依頼された主人公の古着屋店員・荒川青(若葉竜也)が映画に参加するまでの過程や、そこで出会う女性たちとの関係を描いた作品だ。中田は穂志もえか、古川琴音、萩原みのりと並ぶ4人ヒロインの1人・城定イハ役だった。
作中ではイハと荒川が向き合って、お互いの恋愛話を語り合う。その自然な会話のやりとりが見どころのひとつだが、中田の演技は荒川に友達以上の好意を抱いているようにも、友達としか思っていないようにも見える微妙な表現だった。天使にも小悪魔にも見えるという摩訶不思議な魅力を放つキャラクターをつくりあげ、同時に物語のキーパーソンとしての役割を見事に担っていたのである。
「らんまん」聡子役は“視線の演技”が見事
テレビドラマでの活躍も目覚ましい。これまでに22本のドラマに出演しているが、この1作というなら連ドラ初主演作となった「善人長屋」(NHK BSプレミアム/BS4K・22年7月8日から全8回)だろう。
善人と悪人の顔を持つ「善人長屋」の住人たちが、裏稼業の技で事件を解決するという時代劇で、住民たちが助けるのは、困った庶民や仲間たちだ。中田が演じた主人公のお縫は、長屋のリーダー夫妻の娘。幼い頃から勘が鋭く、出会った相手が善人か悪人かを瞬時に見分ける能力の持ち主だった。
思いついたことをすぐ口にするなど率直な一面もあり、その真っ直ぐさゆえに口が悪いところも印象的。例えば「外道」のような強い言葉を発してしまう。他人の不幸にも敏感で、自分事のように悩みを聞き、力になってあげたいと思う気持ちが行動にも表れる。大人ならためらってしまうようなことも子供だからできる、やってしまうといったキャラクターだった。
中田は無垢な部分や純粋さに溢れたお縫を魅力的に演じたが、それまではナチュラルな芝居を求められる役が多かった。「善人長屋」はスリルとサスペンスに加えて、人情とコメディ要素も満載で、彼女はリアクションや表情などの表現を大きめにし、シリアスななかにコメディ風の演技を盛り込むなど新境地に挑戦した。
そして、聡子を演じる今回の「らんまん」である。聡子は妻を亡くした田邊の世話をするために高等女学校を中退し、後妻に入った。田邊を慕い、支える気持ちはあるが、仕事のことなどで自分の理解が及ばないことを気にしている。内気で控えめな性格もあって、なかなか自分に自信が持てない女性である。
そんな引っ込み思案な聡子の心模様を、中田はほんのわずかな瞳の動きや表情の変化で巧みに表現している。複雑に揺れる心境が、痛いくらいに伝わってくるのだ。中田の見事な“視線の演技”に、ぜひ注目してほしい。