東京五輪金メダルの金城・川井姉妹が世界選手権代表を逃す 2人が“涙の会見”で語った環境と心境の変化
「金城で世界一になりたい」
2人とも東京五輪に出られなかった選手たちの悔しさをばねにした力に屈した形だった。
金城は16年のリオデジャネイロ五輪と21年の東京五輪での優勝を振り返り、「私は1から2(初優勝から2度目の優勝)を目指す時、大変だった。優衣ちゃん(須崎優衣=24・東京五輪50キロ級金メダル)なんかは、性格の差もあるのかもしれないけど、(初優勝の時と)同じように(気持ちを)持てるのだと思う」と話した。
金城は東京五輪の後に結婚し、昨年5月に長女を出産、秋に公式戦に復帰した。12月の天皇杯では非五輪階級の59キロ級で復活優勝。だが、五輪階級の57キロ級に出場した明治杯では、世界王者の桜井つぐみ(21=育英大)に敗れて自力でのパリ五輪出場の可能性は消えていた。
「オリンピックが難しいなら次はやっぱり世界選手権。明治杯は悔しいというよりよくやったと思ったが、落ち着いて振り返ると、産後に復帰した選手がいなくて、自分がその第一人者になるんだという、よくやったという気持ちに甘んじていた。今回は産後とか関係なく、金城で世界一になりたいし、娘に金メダルを掛けてあげたい。もう一度、姉妹で世界選手権に出たいと、本当に一生懸命やってきた。負けたことは悔しいけど、明治杯の時よりはいい試合ができた」(金城)
そして「引退かと言われたら、そんなに簡単に引き下がれるほど(中途半端に)レスリングにハマってない。簡単に引退、サヨナラとは言えない。『梨紗子は子供を産んで弱くなった』と言う人もいるかもしれないけど、(後進の)産後復帰への壁を高くしてしまっているようで情けない。戦うたびに苦しいし、ママでも勝てると証明したい気持ちもあるけど、ママアスリートということを抜きにして、レスリングから離れられない」と引退を否定しつつ、思いのたけを明かした。
称え合う姉妹
妹の川井は、昨年の明治杯で彗星のように登場した慶応大の尾崎野乃香に破れた。その尾崎は世界王者にもなったが、明治杯では稲垣柚香(21=至学館大)に逆転で破れてパリ五輪が遠のいた。この日、尾崎はその悔しさをぶつけるかのように奮戦、決勝では10-0で吉武まひろ(21=日本体育大)を圧倒して代表の座を掴み、涙顔で喜んでいた。
五輪でしか注目されないと揶揄されるレスリング。だが、世界選手権は五輪のための単なる踏み台ではない。優勝すれば「世界王者」として歴史に刻まれるのだ。
金城は妹について「私が結婚・出産して、友香子は東京に移ったので会うこともあまりなかった。東京五輪の前のように2人で年中会っていて『絶対に2人でオリンピックに行こうね』なんていうこともあまりなかった」とも話した。
姉妹は万感こみ上げる涙を拭くハンカチを交代で使いながら、溢れる思いを臆することなく記者たちに語る。
川井は「欲を言えば(金城に)勝ってほしかったけど、自分のお姉ちゃんは本当に強い人だなと。負けてしまったけど、今までにないことに挑戦してマットに立っていることもすごいし、世界のトップで戦っている選手とあんなにいい戦いをして、本当にすごい。改めて人としての強さも見せてもらいました」と姉を称えた。
金城は「子供の頃、友香子は運動神経もあまりよくなく、三姉妹で一番レスリングなんかに向いていないと言われていた。それが本当に頑張って夢を実現させてくれた。尊敬しています」とまで言った。お互いに褒め合っても、この日、照れ笑いなどしない。
レスリングのトップ級選手だった母・初江さんに指導された子供の頃から二人三脚で必死に頑張ってきた姉妹。姉妹で金メダルという「ドラマのような夢」(金城)を叶えた東京五輪の後に2人の環境が大きく変わった今、離れて一層、絆が深まったのだろう。
(一部、敬称略)