ソフトバンク「スチュワート・ジュニア」がついに開花の兆し…“日本育ちの全米ドラ1”の計り知れない魅力
「8回でも9回でも行けたような気がする」
ところが、今季のスチュワートは、走者を背負ってもコントロールを乱す場面が激減した。
6月10日のウエスタン・リーグの中日戦(ナゴヤ球場)でも、2回に中日・福田永将に2号ソロを浴びたが、3回からの5イニングでは、いずれも相手の出塁を許しながらも無失点。6回は2安打と自らの暴投も絡んで1死二、三塁のピンチを招きながら、ソイロ・アルモンテを129キロのカーブで空振り三振、続く石橋康太は153キロのストレートで中飛に、7回も死球を出した直後の無死一塁から、石垣雅海を133キロのスライダーで三ゴロ併殺に打ち取った。
結局、6安打を許したものの、7回を1失点で乗り切った。96球を投げ終えた時点で交代となったが、最速の154キロが出たのは27人目の樋口正修への3球目、この日の94球目で、そのタフネスぶりも目立ち「体の感覚も良かったし、8回でも9回でも行けたような気がするよ」とスチュワートもいう。
今季、ファームでの先発4試合で23回を投げ、防御率1.17、奪三振29と圧倒的な数字をマーク。ファームでの今季初先発だった5月19日の広島戦(タマスタ筑後)でも5回無四球。6月10日の中日戦も5回2四球と「ランナーをためた後、三塁に行ってからもカッカせず、ホントに粘り強く、最後のホームを踏ませないという、そういうものが出ていましたね。もう荒れて、四球を連発するようなイメージがなくなっている」と小久保2軍監督。
さらに「高めに抜ける球がなくなってきて、変化球でストライクが取れるようになったし、そこはだいぶ変わったと思いますよ」と制球面での成長ぶりに関しては、高く評価している。
「僕がもっと『クイック、ちゃんとせい』って言ったら、ちょっと意識が強くなって、また(コントロールが)バラけたらイヤやな、と思うんです。タマゴが先か、ニワトリが先か、分からんけど、今、そこそこまとまっているんで、とりあえず、まだ(クイックのことは)言ってない。まあでも、5年間、同じことをしていますけど」
「こっちも覚悟して登板させている」
指揮官にとっても、スチュワートへの“次なるアプローチ”は、まさしく思案のしどころなのだ。高村祐2軍投手コーチも「このままの“いい形”を崩したくないし、そこが難しいところ。今のいい部分を残しながら、どういう風にやっていってあげるか、というところが大切になってくる。日本でやる限りは、そこ(クイック)のところはしっかりとやっていかなくちゃならないし、今後、もう一回、本人が見つめ直さないといけないところ」だという。
甲子園での阪神戦では3盗塁を許し、今季3度目の1軍先発となった7月10日の西武戦(京セラドーム大阪)では、3回2死一、二塁の場面で、デビッド・マキノンの初球にダブルスチールを、4回1死一塁からは2球連続で一塁けん制を挟みながら、その直後となる古賀悠斗の初球に山野辺翔に二盗を決められている。
いずれも失点にはつながらなかったが、続く5回にも1死一、二塁とされると、打者・中村剛也に対する5球はすべてクイックモーションを取ったが、いずれも「1秒2」は切れずじまい。最終的には四球となり、自ら招いた満塁のピンチで、デビッド・マキノンに右前タイムリーを打たれたところで降板となった。
斉藤和巳投手コーチは「ある程度は、こっちも覚悟して登板させている。すべてを求めるのであれば、ここ(1軍の意)に呼んでいない」と評する一方で、藤本博史監督は「強い球を投げているけど、ランナーが出た時の、ね」と、やはり「クイック」を問題視。それは、勝利を優先すべき1軍の将としては当然のことでもある。
それでも、機動力で揺さぶられ、マウンド上で明らかにイラついていたスチュワートの姿は、もう過去のことだ。「クイック」に関しても、その課題を克服し切れていないまでも、目をそらしはしない。セットの際には「球を持つ時間を長くしてみたり、足を上げるタイミングを変えたりしているんだ」と努力と工夫を惜しまない。
「自分が日本に来たときは、まだ幼かったと思う。精神的な部分や考え方の面で、コーチやチームメートにも恵まれて、お互いに信じ合って、教えてもらったことを、自分が信じられるという気持ちが出始めた頃から、すごくいい方向に進んできたと思う。自分の納得いく球を投げられるよう、引き続きやっていきたい」
長所と弱点。その“折り合い”がうまくつけば、スチュワートはそれこそ、とんでもない投手になれるだろう。その魅力とポテンシャルは、やはり計り知れない。
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