米国がウクライナ軍にクラスター弾供与で、ワイドショーのコメンテーターが浅はか過ぎる発言 「彼らに苛酷な現実は見えていない」
反攻作戦の“失敗”
昨年12月に要請を受けたにもかかわらず、アメリカが供与の決断を下したのは今年7月。供与すべきか否か、熟慮を重ねたことは明白だ。ところがTwitterを見ると、「アメリカは今回、自ら進んでウクライナにクラスター弾を供与した」とのツイートが散見される。まったくの誤解であるのは言うまでもない。
クラスター弾の供与を公式に要請したのはウクライナであり、だからこそウォロディミル・ゼレンスキー大統領(45)は7月7日、「民主主義が独裁政権に勝利するための決定的な一歩だ」とアメリカの決断を歓迎したのだ。
ウクライナが待ち望んでいたクラスター弾の供与が実現したのは、反転攻勢と密接な関係があるという。
「ゼレンスキー大統領が反転攻勢を正式に認めたのは6月10日ですが、この時点でウクライナ軍はかなりの被害を受けていました。具体的には、NATO各国から供与された戦車レオパルト2で一気に攻め込んだのですが、ロシア軍の地雷原で立ち往生してしまったのです。NATOの軍事顧問団が『あまりにも作戦が杜撰だ』と腰を抜かし、作戦の中止を強く要請したほどでした」(同・軍事ジャーナリスト)
ロシア軍は昨年の冬ごろからバフムトなど激戦地帯から撤退。戦闘は民間軍事会社ワグネルなどに“委託”し、自分たちは東部や南部の各都市で防御陣営を構築してきた。
湾岸戦争で効果
戦争では守るより攻めるほうが難しい。緒戦でウクライナ軍は侵攻してくるロシア軍の迎撃に成功したが、今は攻める側。まさに攻守が逆転したのだ。
「反転攻勢が始まる前から、ウクライナ軍が充分な航空戦力を保有していないことを不安視する声はありました。戦車は航空支援を受けて敵陣に攻め込むのがセオリーだからです。その一方、ロシア軍の士気が極めて低いことから、反転攻勢で総崩れになる可能性も指摘されていました。蓋を開けてみると、バフムトなど一部の戦略的要衝を除くと、ロシア軍は守りを固めるだけ固め、全く動かないことが分かりました。ひたすら塹壕にとどまっているだけなのです。ウクライナ軍もレオパルト2が地雷原に阻まれて動けないので、戦線は膠着してしまいました」(同・軍事ジャーナリスト)
榴弾砲を使って塹壕を攻撃することはできる。だが、ピンポイントで大きな損害を与えることはできるが、その範囲は極めて狭い。一方、クラスター弾は、前述した通り広範囲の攻撃が得意だ。
「ロシア軍はウクライナ各地に長距離の塹壕を建設し、そこに潜んでいます。それを叩くにはクラスター弾が有効でしょう。実際、湾岸戦争でアメリカ軍が使用すると、塹壕に籠もっていたイラク軍兵士は『鉄の雨が降ってくる』と戦意を喪失し、相次いで投降しました。ウクライナ軍がクラスター弾を使用した場合、ロシア兵は塹壕から逃げ出し、後退して防御陣を再構築しようとするはずです。その間に全力で目前の地雷を除去し、戦車を筆頭に前進するという作戦だと考えられます」(同・軍事ジャーナリスト)
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