覚醒した“剛腕”、オリックス「山下舜平大」が明かした“速く鋭いカーブ”の秘訣
新たな秘密兵器
スピードガンの表示では、120キロ台。その“速く鋭いカーブ”に、打者は簡単に対応できない。西武は開幕戦に続き、4月23日、5月5日と今季3度、山下と対決しているが、計19回3分の1で1点しか奪えていない。
前半戦終了時点では、12試合の先発登板で72回3分の2を投げ、奪三振77。奪三振率にすると「9.54」の高率に加え、規定投球回数には達していないものの、防御率は1.49の“隠れ2位”。その厄介な球の威力を、それらの数字が図らずも証明している。
さらに、新たな秘密兵器も加わっている。「あれが邪魔ですね」と西武・平石ヘッドコーチが困惑の表情を浮かべ、松井稼頭央監督も「どの球でもストライクが取れますね」。
それが「フォーク」だ。
「もともと投げていたんですけど、全然落ちなくて。で、教えてもらった瞬間、その1球でポンと落ちたので、『あ、これがフォークか』みたいな感じで。もともと、チェンジアップみたいになってたんですよ。なんか、スー、みたいな。今もたまにあるんですけど」
「師匠」は野茂英雄氏
伝授された「フォーク」の師匠は、全米に「トルネード旋風」を巻き起こした、元ドジャース・野茂英雄氏。2月の宮崎キャンプを訪問していたバファローズOBは、ブルペンで山下にフォークの握りを直接見せ、投げ方を伝授した。
その直後、まさしく1球目だった。
「自分も、その一発目で『うわ、落ちた』と」
捕手の背後で、その球筋をチェックしていた野茂氏が思わず、サムアップした右手の親指を高く掲げ、山下を絶賛した。
「そのときに習った握りで、ここ(人さし指と中指を開いた部分)は変わっていなくて、この(薬指と小指)感じだったり、ここの深さはホント、数ミリ、ほんとちょっと」と若干のアレンジは自己流で加えているというが、「指の感覚とか、その使い方だったり、というのは、野茂さんのものをやっています」。
野茂氏といえば、日本での5年間で1204奪三振、メジャー実働13年で1918奪三振。それこそ、ストレートとフォークの2球種で、三振の山を築き上げた剛腕だ。
1メートル90の長身から投げ下ろされてくるストレートは最速159キロ。2段階で滑り落ちてくるカーブに、野茂氏直伝のフォーク。事実上、その3つで打者を打ち取っていく。メジャーのレジェンドの“エキス”が注入されたとあっては、これこそ、鬼に金棒だろう。
それにしても、山下の台頭で、オリックスの主力投手陣の顔ぶれはフレッシュな上に、充実度を増す一方だ。
最多勝、最優秀防御率、最多奪三振、最高勝率、沢村賞の「投手5冠」を、2021年、2022年の2年連続で獲得した山本由伸は、2016年ドラフト4位で宮崎・都城高から入団した。
7年目にして、日本を代表する投手の座は揺るぎない。
山下の1年先輩で2019年ドラフト1位・宮城大弥(沖縄・興南高)も、2021年13勝、2022年11勝をマーク。山本とともに、3月のWBC日本代表としても活躍。もはや押しも押されもしない、オリックスの顔ともいえる左腕の一人だ。
高卒の投手をファームでじっくりと育て上げ、数年後に先発ローテーションに定着させる。その育成サイクルが見事なまでに稼働していることが、オリックスの強さの裏付けである。
そこにまた、山下舜平大という“新たな剛腕”が出現した。その未来図は、もはや想像もつかない、壮大なものになる予感すら、漂っている。