「ハヤブサ消防団」は今どき珍しい正統派ミステリー 第1話で分かった4つのナゾとは
考察ポイントは数多い
気持ちは分かる。簡単な職務ではない。作品では紹介されなかったものの、報酬も年額数万円で、高いとは言えない。地域を自分たちで守るという決意と責任感がないと務めるのは難しい。
ところが、太郎は心変わりする。幼いころからの顔見知りである工場経営者・波川志津雄(大和田獏・72)の家が火事になり、その消火活動をハヤブサ消防団が懸命に行うところを目の当たりにして、感動したからである。割とミーハーなのだ。
「消防団の仲間に僕も入れてください」(太郎)
その矢先、波川宅の火事は放火であり、犯人は地元の元不良・山原浩喜(一ノ瀬ワタル・37)ではないかとの説が浮上する。波川と浩喜は以前から揉めていた。
波川が売却した畑にソーラーパネルが並べられ、景観がガラリと一変したことに対し、浩喜が怒ったためだ。浩喜が波川宅に怒鳴り込んだという話もあった。
火事はそれ以前にも2件起きていた。浩喜による連続放火なのか。コミュニティが疑心暗鬼に包まれそうになる中、浩喜が行方不明になった。警察の捜索に加わった太郎らハヤブサ消防団は、山合の滝壺から浩喜の死体を発見する。他殺か、自死か、事故か――。
考察ポイントを挙げたい。
1. 火事は連続放火なのか。だとすると、動機は
2. 浩喜は放火犯なのか。どうして山合の滝壺で死んでいたのか
3. 男女5人を伴い、山間部で夕陽を眺めていた白髪の女性は住民・映子(村岡希美・52)。彼女がスピリチュアルな雰囲気を漂わせていたのはなぜか
4. 太郎が見掛けた若い女性は東京から移り住んできた映像ディレクター・立木彩(川口春奈・28)。彼女は火事と浩喜の死に関係するのか
生前の浩喜が太郎宅を訪れた際、帰り際に「ハヤブサはどうや?」と尋ねた。太郎が「ここに来て良かったです」と答えると、笑顔を浮かべた。この笑いが火事と浩喜の死のナゾを解くカギの1つになりそうだ。
浩喜は元不良だが、愛郷心は強く、太郎の言葉がうれしくて笑ったのではないか。だから波川が売却した畑にソーラーパネルが並んだのも許せなかった。コミュニティの平和を乱す波川宅の火事についても気にしていた。浩喜は火事の真相に迫り、だから殺されたのか。
波川と浩喜が揉めた理由がソーラーパネルにあったことから、その設置に関わる「ルミナスソーラー」の営業・真鍋明光(古川雄大・36)の存在も気になる。また、そもそもコミュニティを守る存在であるハヤブサ消防団の団員は信用できるのか。団員は次の通りだ。
太郎と同じ年齢の藤本勘介(満島真之介・34)、熱血おやじの分団長・宮原郁夫、木訥とした八百万町職員で副分団長・森野洋輔(梶原善・57)、C調の呉服店主人・徳田省吾(岡部たかし・51)、慎重そうな林業メーカー社長・山原賢作(生瀬勝久・62)。なお、山原と浩喜は親戚。だが、山原によると、深い付き合いはないという。
キャストのうまさとロケ撮影も魅力
好評の理由の3つ目は主要キャストが全員うまい。中村は善玉にも悪玉にも成りきれるが、太郎の場合はどちらでもなく、どこにでもいる男。悪人ではないが、かといって強い正義感もなく、ほどほどに自己中心的である。
こういう特徴の薄い人物に扮するのは一番難しいものの、中村が演じると魅力的な人物になる。中村は30代の俳優の中で間違いなく先頭集団にいる。
消防団員役の橋本、梶原、岡部、生瀬はそろって演劇出身のベテラン。お手本のような演技を見せている。表情も仕草も自然だ。一時期、顔芸をすることがうまい俳優の象徴と言われたが、ドラマ制作者や演劇関係者に言わせたら逆。不自然だからである。顔芸をする現実の人間はいない。
太郎を支える編集者・中山田洋に扮している山本耕史(46)も相変わらずうまい。中山田は地味な役柄だが、存在感を出している。
好評の理由はまだある。大半がロケなので美しい景色が観られて、心を温めてくれるところである。ほとんどセットで撮影する作品が多い中、新鮮だ。
そう言うのは簡単だが、ロケが多いと撮影は難しい。天候の影響を受けないセットと違い、雨が降ったり、曇天になったりしたら、撮影がストップし、スケジュールに影響が出るためだ。さらに、機材を運ぶのが困難な山間部のシーンや消火シーンもあり、この作品を撮るのは一苦労に違いない。
作品の舞台は中部地方だが、ロケが行われているのは群馬県富岡市と下仁田町など。景観が美しいところはハヤブサ地区と一緒である。