リニア建設を妨害する川勝平太・静岡県知事 「第3ラウンドも外堀を埋められつつある。世論の潮目は変わった」
“工事期間中の湧水”問題
細かい説明になるが、JR東海がまず初めに掘ることを計画しているトンネルは「先進抗」であり、実際にリニアが走行する「本坑」ではない。「先進抗」は地質調査のために掘られ、「本坑」が完成すると、作業用や避難用のトンネルとして使われる。
その「先進抗」の工事だが、下から上に掘り上げる“山梨県から静岡県に向かって掘削”の場合、水は坂道を下るだけで何の問題も生じない。ところが上から下に掘り下げる“静岡県から山梨県に向かって掘削”の場合、突発湧水が生じた場合、建設現場がダムのようになって湧水がたまってしまう。作業に支障がでるだけでなく、最悪の場合、現場が水没し、作業員が命を落とす危険性がある。
「そのため山梨側から掘り上げるしかないわけですが、県境を超えて静岡県内の掘削を続けていくと、静岡県内で発生した湧き水は、下り坂の工事現場であることから全て山梨側に流れていくことになります。山梨県側から県境を越えて工事を進める先進坑が、静岡県側のトンネルと繋がって水をポンプアップできるようになるまでの期間は約10ヵ月と想定されており、このトンネルが繋がるまでの間に生じる湧き水の量は500万トンから300万トン程度と考えられています。実は、国交省有識者会議の中間報告において、この県外に流れ出る水が生じても大井川の流量は維持されるとの解析結果が示されているのですが、『JRが全量を戻すことを約束しているから』という理由で協議すべき問題として残されており、これを戻すための対策案として、JR東海はA案とB案を提案しました」(同・他担当記者)
A案は静岡県から県外に流れ出た分の水量を、先進抗が貫通した後に、山梨県内のトンネルに湧き出る湧水を使って、ポンプでくみ上げて戻すというものだ。
流域自治体の支持
B案は県外に流れ出た分、大井川にある田代ダムの取水を制限するというものだ。東京電力リニューアブルパワーは大井川の水を田代ダムで取水、導水管で山梨県の早川町に送り、水力発電所の田代川第一・第二発電所で使用。水は早川から富士川を通って海に流れていき、大井川に戻ることはない。
「大井川の水量は年間で約19億トン。降水量の変化などで約9億トンの増減があります。10ヵ月という工事期間中の限られた時期に静岡県内から流れでる水の量は500万トンとか300万トンで、大井川の年間流量に対しては0・2~0・3%といったごく小さい数字です。これくらいの規模ですので、東電が田代ダムで取水する水の量を少し減らしてもらえるのなら、工事中に戻せない水の量を充分に確保できますし、大井川の水量は減らないというアイディアです。A案よりB案のほうが実効性は高いと評価され、今ではB案ではなく、田代ダム案と具体的な名称で呼ばれています」(同・担当記者)
読売新聞は3月28日、「田代ダム活用案 首長期待 大井川流量確保 県は慎重姿勢」との記事を静岡県版に掲載した。
27日に流域市町や利水団体が集まる「大井川利水関係協議会」が開催され、JR東海がB案について説明すると、流域の市や町からは「早期に協議に入るべきだ」という意見が大勢を占めた。一方、県は慎重姿勢を崩さず、読売新聞は《温度差が顕著となった》と伝えた。
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