「年代」「性別」を超えてあらゆる人に化粧品を――小林一俊(コーセー代表取締役社長)【佐藤優の頂上対決】

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化粧品の中国問題

佐藤 もう一つのGであるグローバル、海外はどうなっていますか。

小林 欧州のトラベルリテール(空港免税店)に力を入れたり、中国のみならずインド、イスラム圏へと展開しようとしていますが、ブランディングでは欧米の会社がすごく強いので、それに負けないようにしないといけないですね。またインドは2015年にローカルブランドを発売し、コツコツやってきましたが、もう少しスピードを上げていきたい。海外進出ではタイミングが大切。現地の会社をM&A(合併・買収)したり、パートナーを作ったりすることも考えなければなりませんね。

佐藤 まだまだ伸びしろがたくさんありそうですね。

小林 ただ問題もあって、中国が「化粧品監督管理条例」という法律を作ったんです。もともと化粧品は全成分表示が義務付けられ、何がどのくらい入っているかを明らかにしなければなりません。ですから似たようなものを作ろうと思えば作れた。でも料理と同じで、レシピが同じでも作る人によって全然違うものができます。例えば、乳液やクリームでも、攪拌(かくはん)の仕方や温度、混ぜる方法でまったく感触の違うものになる。

佐藤 ジェネリック医薬品と一緒ですね。

小林 このようなこともあってか、処方や製法をすべて開示する法律ができたのです。これによって当局による製造工程の査察が可能になりました。

佐藤 それだと完全にコピーされてしまいますね。

小林 いま経済安全保障では半導体やハイテクの工作機械やロボットが特定重要物資に指定されていますが、中国は化粧品にも手を伸ばしてきています。政府はこの分野のことも考えてほしいですね。

佐藤 何か打つ手はあるのですか。

小林 輸出すると、その工程を見せることになりますから、日本でしか発売しない商品を作り、逆にインバウンドで売れるようにしていく手もあります。

佐藤 なるほど。しかしこれは一企業というより国家レベルの対策が必要でしょうね。

小林 一方で、化粧品や医薬品の規制では、本場のヨーロッパが先を行く。フランスは化粧品が国策産業で、そのフランスを中心としてヨーロッパは化粧品に関するルール作りを進めています。今後は、研究開発したり、レギュレーション(規制)にうまく合わせるには、ヨーロッパでの情報収集も強化する必要があります。

佐藤 ヨーロッパの狙いはそこです。

小林 日本はやはりガラパゴスで、こうした流れについていけないでいる。政治家の方々には、ぜひともここを何とかしてほしいですね。

小林一俊(こばやしかずとし) コーセー代表取締役社長
1962年東京都生まれ。慶應義塾大学法学部卒。86年小林コーセー入社。89年より企画本部長室でCIプロジェクト推進、91年のロゴ一新、コーセーへの社名変更で大きな役割を果たした。同年取締役マーケティング本部長兼宣伝部長、95年常務取締役、2004年代表取締役副社長となり07年から現職。

週刊新潮 2023年7月13日号掲載

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