「年代」「性別」を超えてあらゆる人に化粧品を――小林一俊(コーセー代表取締役社長)【佐藤優の頂上対決】

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化粧品の力

佐藤 コロナ禍はいかがでしたか。

小林 本当にたいへんでした。2020年にコロナで売れなくなった商品ワースト1は口紅で、化粧品では他にも頬紅、ファンデーション、化粧下地、おしろいの4品がワースト10に入っていました。

佐藤 売れるのは、マスクの外のアイシャドウくらいですか。

小林 そうでしたね。2021年もまだまだ低調だったのですが、その時、全国の医療従事者の方々に化粧品を寄付したんです。日本財団を通じて全国の病院の看護師さんはじめ医療従事者の方々に100万点以上の化粧品をお届けしました。非常に喜ばれ、お手紙もたくさんいただきました。「これでがんばって明日も患者さんに向き合える」と大きな反響があり、日本財団の笹川陽平会長も「こんなに反響のある寄付はない、化粧品はすごい」とおっしゃっていた。

佐藤 食料や生活必需品では生まれない力が化粧品にある。

小林 寄付してわかったのは、メイクで自分の気持ちを高めたり、スキンケアでゆっくりリラックスできたり、化粧品は心までも豊かにしてくれる。私どもも前向きになれた。そうしたら2022年から売れ出しました。また、このコロナ禍でメイクへの価値観が変化した。人に会う機会が減ったことで、今まで身だしなみとして行っていたメイクを、自己実現のため、自分らしさの表現のためにするようになりました。

佐藤 非常に興味深いですね。2022年はロシアがウクライナ侵攻を始めた年です。たぶんそれがなければ、第十何波とか言って、ニュースの中心をコロナ禍が占めていた気がします。人間はより恐ろしいことが起きると、それまでの恐ろしいものを乗り越えていくところがある。2022年は、ウクライナ侵攻が起点となり、さまざまなところで、ある種の転換が起きたのではないかと思います。

小林 私どもは、化粧品の力を再認識しました。それからもう一つ、コロナ禍では、男性が美容に目覚めたと思うんです。

佐藤 普通に考えれば、マスクで顔が隠れましたから、男女とも美容から関心がなくなりますよね。

小林 確かに最初はそうでしたが、リモート会議が普及したことで、大きなスクリーンにドンと自分の顔が映る。あれは鏡よりシミやシワが目立つんですよ。だからこのコロナ禍で、男性が美容整形に行ってシミを取ったり、歯を白くしたりという話をよく聞くようになりました。

佐藤 意外なところからジェンダーレスが進んだ。それはつまり成長の基盤ができたということですね。

小林 そうですね。成長については、そのジェンダーとジェネレーション、そしてグローバルの3Gがキーワードだと考えています。ジェネレーションでは、子供のスキンケアにも力を入れています。アレルギーのリスクを抑えるためにも、肌のバリア機能を高めること、そして紫外線から肌を守ることが重要です。

佐藤 具体的にどんなことをされているのですか。

小林 幼保施設でスキンケアの習慣化の啓発をやったり、母親向けに正しいスキンケアの仕方の講座を開いたりしています。昔は小さな子供に化粧をさせるのか、とか、日焼け止めはほんとうに安全なのか、といった疑念もありましたが、いまはすっかりなくなりました。

佐藤 子供の職業・社会体験施設である「キッザニア東京」にもコーセーのパビリオンがありますね。

小林 私どもはヘアメイクやメイクアップアーティスト、パフューマーといった仕事を体験してもらっています。これもジェネレーションレス、ジェンダーレスの一つとして、点と点が線でつながっています。

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