「山口5人殺害事件」で特別抗告 『つけびの村』著者が語る「保見死刑囚はかわいそう」への違和感

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“平成の八つ墓村事件”

 山口県周南市の山間部にある限界集落で2013年7月、近隣に住む住民5名を殺害し、うち2軒の家に火を放ったとして殺人と非現住建造物等放火に問われ、2019年に死刑が確定した保見光成死刑囚(73)。再審請求を認めなかった広島高裁の決定を不服として昨年12月付で最高裁に特別抗告したことが今年7月にわかった。【高橋ユキ/ノンフィクションライター】

 保見死刑囚は死刑が確定した2019年の11月に再審請求を行った。弁護団は山口地裁に対し、裁判のやり直しを求めて新たな証拠を提出し、完全責任能力はなかった旨を主張していたが、同地裁は2021年3月、請求棄却を決定。これを不服として保見死刑囚は即時抗告したものの、広島高裁は昨年11月に再審請求を退けている。

 彼についての話題がニュースになるたび、インターネット上では「地元の村人たちにいじめられていた保見死刑囚はかわいそうだ」といった声が散見される。事件発生直後、この事件には“平成の八つ墓村事件”の異名がつけられ、なおさら“山間の集落で周囲から疎んじられた男による復讐”説を信じたくなるのだろう。だが、それは間違いだ。

 筆者は2017年からたびたび同地区に赴き、取材で得た情報をもとに『つけびの村』を執筆し、先頃、その文庫版を刊行した。端的に言えば、現地で見聞きした情報はネット上にはびこる「噂話」とは全く異なっていた。そして、昨年秋には、保見死刑囚の親族が眠る“墓”に変化があった。

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