「横浜優勝」への呼び水となった“マシンガン記念日” ボークで打ち直し…それが奇跡の起死回生弾を生んだ!

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“値千金の一発”でゲームは振り出しに

 横浜も負けていない。その裏、「こういう試合は何が起きるかわからない。絶対にあきらめない」という鈴木のソロなど5長短打を集中し、ついに9対9の同点となった。

 そんなノーガードの打ち合いが続く8回、巨人は高橋の3ランで再び3点差。さすがに「これで勝負あった」というムードになった。その裏、長嶋茂雄監督はストッパー・槙原寛己をマウンドに送り、万全の態勢で逃げ切りを図った。横浜はローズのタイムリーで1点を返したものの、2死一塁で佐伯貴弘が右飛に倒れ、この回の反撃もここまでと思われた。

 ところが、槙原の投球の直前、三塁塁審が「セットのときに静止していなかった」としてボークを宣告していた。その声が聞こえた佐伯は「その瞬間、気持ちが切れて、ああいう打球になったんです」と説明した。

 一方、スリーアウトチェンジと思い込み、ベンチに引き揚げようとしていた清原はじめ巨人ナインは、グラウンド上で落胆の色をあらわにした。

 そして、打ち直しとなった佐伯は「(前打者)駒田さんへの攻め方を見て、(決め球の)フォークをずっと待っていた」と狙いを定め、槙原の8球目をまるでドラマでも見ているように右翼席に叩き込んだ。「自分でもビックリするくらいうまく打てた」(佐伯)。ミラクルとも言うべき値千金の一発で、試合は12対12の振り出しに。

「長かった。でも、楽しかった」

 こうなれば、流れは横浜のもの。9回裏、万永貴司の安打と五十嵐英樹の犠打で1死二塁とお膳立てをすると、2死後、波留が前進守備のセンター・松井の頭上を抜く劇的なサヨナラ打を放ち、両軍20本ずつ計40安打が飛び交う4時間32分の大激戦に終止符を打った。

 ヒーローの波留は「たまたま僕が代表で打ったけど、みんなで、チーム一丸で戦うんだ、つないでいこうという気持ちだった。こんな試合は人生で初めて。長かった。でも、楽しかった」と言って声を詰まらせた。

 権藤博監督も「1ヵ月分やったような雰囲気だ。こんないろいろなことが毎回起こるなんて。昨日(8対7の打撃戦)から何か物の怪に憑かれたようだ」と疲れきった表情だったが、「向こう(巨人)はハードパンチ。こっちはピストル。そのピストルがよく打った」と“大砲”に打ち勝った打線をたたえた。

 すでに一部の媒体では“マシンガン打線”の見出しもお目見えしていたが、権藤監督がピストルにたとえたように、まだ定着していなかった。それが今では、この巨人戦こそが“マシンガン記念日”と呼ぶにふさわしいほど、象徴的な試合として記憶されている。

 この日の勝利で中日に5ゲーム差をつけ、34年ぶりの前半戦首位折り返しを確定させた横浜は、後半戦も投打がかみ合い、38年ぶりのリーグ優勝と日本一を実現した。
 
 25年ぶりVを狙うDeNAも、Vへの大きな布石となる“伝説の試合”をつくり上げることができるかどうか、後半戦の戦いぶりに注目したい。

久保田龍雄(くぼた・たつお)
1960年生まれ。東京都出身。中央大学文学部卒業後、地方紙の記者を経て独立。プロアマ問わず野球を中心に執筆活動を展開している。きめの細かいデータと史実に基づいた考察には定評がある。

デイリー新潮編集部

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