「どうする家康」は名作か、それとも迷作か 2つの価値観が頻繁に入れ替わる最大の難点

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時代考証担当者の気になる発言

「史書もウソかもしれない」という声もあるに違いないが、「どうする家康」のウソと史書のウソでは、どちらに説得力があるだろう。

 第26話の視聴率は個人6.6%(世帯10.7%)。前作「鎌倉殿の13人」の第26話は個人7.6%(世帯12.9%)、前々作「青天を衝け」の同話は個人7.3%(世帯12.7%)だったから、見劣りする(ビデオリサーチ調べ、関東地区)。再放送、BSプレミアム、BE4Kでも観られるという放送条件は3作品とも同じだ。

 各局とも世帯視聴率など気にも留めていないが、スタッフたちはT層(13~19歳の個人視聴率)とF1層(20~34歳女性の個人視聴率)の数字はショックであるはず。

「血生臭くて女性向きではない」などと言われた「鎌倉殿の13人」はT層が1・8%、F1層が2.2%あった。民放の他番組と比較しても高い部類に入る。一方、現代の価値観を採り入れ、ギャグも散りばめた「どうする家康」の場合、T層1.0%、F1層1.2%にとどまっている。T層はよく1%を割る。

 最近は子供や女性を中心に「刀剣」が流行している。また「歴女(れきじょ)」という言葉もあり、若者や女性の間で歴史は静かなブーム。それなのに「どうする家康」は十分に取り込めていない。

 一方、より細かく個人視聴率を眺めると、大河の岩盤支持層であるはずの中高年以上に離脱が目立つ。新たなファンの獲得がうまくいかず、一方で旧来のファンが逃げてしまった形になっている。

「どうする家康」は放送開始早々から首を捻ることが起きた。時代考証担当者3人のうち1人である平山優・健康科学大学特任教授が、火縄銃の撃ち方の不自然さなどを指摘された後の今年1月14日、Twitterでこうつぶやいた。

「ハッキリ言わせて頂くと、史料も論文もちゃんとした歴史書もカバーしていない人は、自重したほうが賢明だと思う。まぁドラマの感想や想いは自由ですが、史実で斬り込んでくるのは、無謀としか」(平山氏のTwitter、原文のママ)

 日本中世史の専門家以外は「どうする家康」の史実問題に踏み込むな、という意味にも受け取れる。受信料で制作されている大河のスタッフの姿勢としてはいかがなものだろう。

 大河の制作には巨費が投じられている。2023年度のNHK「収支予算と事業計画の説明資料」を見ると、1話当たり7900万円。民放の1時間ドラマの制作費がおおむね3000万円なので、2倍以上もかけている。無論、大河を観ない人の受信料も使われている。

 また、日本の教育課程では義務教育修了までに日本中世史も学ぶのは知られている通り。学歴と学習歴によって受信料の額が変わるわけでもない。法と公序良俗に反しない限り、誰もが史実や時代考証を含めて“大河を語る権利”を持つはずだ。

 次の第27話では家康が信長に挑むようだ。上手いウソになるか。

高堀冬彦(たかほり・ふゆひこ)
放送コラムニスト、ジャーナリスト。大学時代は放送局の学生AD。1990年のスポーツニッポン新聞社入社後は放送記者クラブに所属し、文化社会部記者と同専門委員として放送界のニュース全般やドラマレビュー、各局関係者や出演者のインタビューを書く。2010年の退社後は毎日新聞出版社「サンデー毎日」の編集次長などを務め、2019年に独立。

デイリー新潮編集部

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