選手に演技の練習をさせていた? トリッキーな走塁で攻める「新庄野球」の意外な原点
トリッキーな走塁にはセンスが必要
7月13日、楽天に1点差で負け7連敗。しかも球団として54年ぶりとなる6試合連続1点差負けを記録した日本ハムだが、時に「暴走」と指摘されることもあるものの、新庄剛志監督(51)の“トリッキーな走塁作戦”は後世に残るのではないだろうか。決して大げさではなく、対戦するパ・リーグ5球団の警戒ぶりを見ていると、これからの日本ハムの「機動力野球」が令和のプロ野球界を変えていくような気がしてならない。
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新庄監督が「野球センス」の重要さを口にしたのは、7月6日の福岡ソフトバンク戦後だった。いったんは同点に追いついたものの、その直後の8回裏に勝ち越され、1点差負け。カード3連戦も1勝2敗と負け越した。
「あれは意外とね、ああいうふうにイージーなフライ、江越(大賀=30)君がセカンドランナーで、(相手野手が)走ってこないだろうって思っているところで、送球のコントロールの悪さっていうのが出てくるんだよね」
試合の主導権がソフトバンクに流れていったのは3回表の攻撃。無死一、二塁の好機で石井一成(29)の打球は平凡なライトフライ。二塁走者の江越がタッチアップで三塁を狙ったのだが、ソフトバンクの右翼手・柳田悠岐(34)の好返球に阻まれてしまった。この暴走劇が「日本ハム劣勢」の展開につながったのだが、新庄監督は相手守備陣の意表を突いたとして絶賛していた。
しかし、前日の同カードでのことだ。一塁走者の清宮幸太郎(24)がセンター前ヒットが出た場面で積極果敢に三塁まで走ったものの、タッチアウトになっている。その走塁に関しては、「狙う必要がない!」と怒っていた。
「昨日と今日で、言っていることが矛盾するのではないか?」
そんな記者団の疑問に、新庄監督は「走ってこないだろうって思っているところで走るのが、相手の送球ミスにつながって」と説明し、最後は「センスを磨かなきゃね」と清宮にも苦言を呈していた。
三塁ランナーの重要性
“野球センス”といえば、こんな試合もあった。
「セパ交流戦で中日と対戦した6月16日、新庄監督はフォースボークを応用した『重盗作戦』で相手陣営を混乱させました。一般的な重盗は一塁走者が先にスタートを切り、二塁盗塁を阻止するための捕手からの送球に反応して一・二塁間で挟まれる間に、三塁走者が本塁に突入します。でも、フォースボークは順番が逆です。一・三塁の場面で、中日投手がセットポジションに入り、一塁走者のほうを見た瞬間、三塁走者がスタートを切りました。ボークは誘発できなかったものの、中日内野陣は慌ててしまい、本塁生還が成立しました」(ベテラン記者)
三塁走者を走らせる作戦は、故・野村克也氏を彷彿させるものがあるのではないだろうか。野村監督のID野球は走塁だけではなく、攻守の全てが詰まっている。ヤクルト、阪神、社会人野球・シダックス、楽天の各チームで薫陶を受けた選手たちによると、「プロ野球選手である前に、まず人として」の人生訓の教えのほうが多かったそうだが、彼らが必ず口にするのが「セ・リーグの野球を変えた」の言葉。それは走者の動き、とくに三塁走者の走り方である。
「極端な話、三塁走者はボールがバットに当たると同時にゴー。本塁へ突っ込むのです。それまでは『打球が内野手の間を抜けるのを確認してからスタートを切る』のが当たり前とされていました。でもヤクルト時代の野村監督が、三塁に走者がいる場面でもヒットエンドランを仕掛けてきたから、その作戦は全球団に広まり、今では完全に定着しています」(プロ野球OB)
新庄監督も阪神時代の野村監督に学んでいるが、この内野ゴロでも本塁に突入させる作戦は、当時、「奇策」扱いされていた。新庄野球の奇策といえば、先のフォースボークだけではない。
昨年7月3日のオリックス戦だった。二死一・三塁の場面で、一塁走者の石井一成 が二塁方向にスタートダッシュを切ろうとして止め、慌てて一塁ベースに戻ろうとした。盗塁やエンドランのサインが出たものの、それを見破られて牽制球。「逆を突かれて、一塁ベースに戻れない」というシーンはよくある。牽制球を放られる前だったが、このときの石井の動きは、まさにそれだった。オリックス投手の山崎福也(30)は「何やってんだよ、サインの見間違えか?」と余裕の表情で一塁手にボールを投じ、一・二塁での挟殺プレーが始まった。その瞬間、三塁走者が本塁に向かって猛ダッシュ。1点が入った。
「実は、相手投手に牽制球と挟殺プレーを誘発させる新庄監督の作戦でした」(関係者)
試合後、新庄監督は「(キャンプ中から)演技の練習をさせていた」と第一声こそおちゃらけたが、「新たな作戦。ここぞというときに使う。演技がうまそうなランナーだったらサインを出す」と、すでにチームプレーとして浸透させてあることを明かしていた。
「今年6月の巨人戦でもこれまでの野球理論を覆す走塁プレーが見られました。一死一・二塁、打席にはピッチャーの鈴木健矢(25)。最初から送りバントの構えでしたが、普段、パ・リーグのピッチャーは打席には立たないので、案の定、空振り。二塁走者のアルカンタラ(31)が飛び出していて、巨人捕手の大城卓三(30)は定説通り、二塁に送球したら、アルカンタラは三塁に滑り込みました。新庄監督はベンチで『いただきました!』と言わんばかりにガッツポーズでした」(前出・同)
そのときも新庄監督は「三塁へ行けと指示していた」と話していた。新庄監督の野球脳では「ピッチャーはバントサインで空振りする可能性が高い」=「二塁走者は三塁ゴー」と解釈されていたのだ。こうした走塁が「試合の流れ」を掴むきっかけになっている。
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