【佐藤蛾次郎の生き方】亡くなった後、友人たちが出した秀逸な談話と手作りカレーの関係

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「これからは猫3匹と一緒に暮らすよ」

 だが、晩年の蛾次郎は元気がなかった。おしどり夫婦として知られ、四十数年間連れ添った妻で元俳優の和子さんが2016年夏に多発性骨髄腫のため68歳で旅立ってからは、めっきり老け込んだ。

「カミさんは大きな病気をしたことがなかったから、ずっと一緒にいるものと思っていた。1年以上前から『背中が痛い』『腰が痛い』と言っていたけど、大丈夫だと思っていた」

 と、蛾次郎は言っていた。「これからは猫3匹と一緒に暮らすよ」。寂しそうに話していたのを私は覚えている。

 大腸癌と直腸癌の手術もしたことがあった蛾次郎。心臓のバイパス手術もした。健康状態は決して万全だった訳ではない。しかもここ数年は、自宅で転んだことで腰を痛め、杖をついて生活していたことから、外出する機会は減り、仕事も減らしていた。

 妻とは東京・銀座8丁目の博品館の裏にある飲食店ビルでカラオケスナック「蛾次ママ」を経営。接客上手な妻あっての蛾次郎だっただけに、先立たれたとあっては想像以上に孤独を感じていたに違いない。

 ウイスキー飲み放題でポップコーンがついて1人4000円もしなかった「蛾次ママ」。私はそれこそ店で蛾次郎へのインタビューをしたこともあったが、プライベートでも何度も通った。銀座の超一等地にありながら値段が良心的。しかもカラオケは無料(と記憶している)。

 時々、得意料理のカレーを客に振る舞った。蛾次郎は興が乗ると夜景が見えるステージに立ち、大好きな「望郷じょんから」を歌った。その渋い声は忘れられない。

「店の中に入って俺の顔を見るなり、『本物だ!』と驚く客もいるよ」

 ニヤリと不敵な笑みを浮かべながら話していた姿が懐かしい。寅さん映画のポスターが飾られた「蛾次ママ」は、寅さんファンにとっては隠れた「聖地」でもあった。

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