不漁が続くサンマやサバを尻目に「“安い魚”の代名詞」が脚光 水揚げ量日本一「銚子港」で“半年経っても美味しいイワシ”が味わえる理由

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熟成塩タレで「いつでもイワシがうめぇ」

 渡辺さんは十数年前、地元でたくさん獲れて処分に困っていた岩ガキの殻を有効利用し、魚の鮮度保持に役立つ「熟成塩タレ」を開発・製造した。研究機関の協力を得て、岩ガキの殻を高温で焼き、粉末にして水に溶かし、塩とタマネギ、ショウガなどの香味野菜と一緒に、素焼きの甕(かめ)で数週間熟成させて完成させた。

 銚子港で大量に水揚げされるイワシのうち、大型魚(大羽イワシ)を直ちに三枚に下し、タレに6分漬けてから真空パックして、マイナス60度の保冷庫で保存する。この手法だと、なんと半年間保存しても解凍すれば、新鮮で、プリッと、うま味抜群のイワシ刺しがいつでも食べられる。ちなみにこの技術は、2009年に特許を取得している。

 渡辺さんは、このタレを自身の店だけでなく、銚子市の料理店などで作る「銚子うめぇもん研究会」を通じて他店にも提供。梅雨時のイワシ、秋・冬のサバともに「銚子自慢の青魚を食べに来て」とPRしている。

 今年も6、7月に銚子市や旭市などの料理店6軒で、「入梅いわし祭」と銘打ったイベントが行われ、タレを使ったイワシの刺し身や漬け丼、天ぷら、つみれ汁といったセットメニューが格安で提供され、人気を集めている。

回転寿司チェーンが目を付けたものの

 東京など都市部での不人気とは裏腹に、銚子の名物となっている熟成塩タレによるイワシ刺しや漬け丼といった料理。かつて、評判を聞き付けた回転寿司チェーン数社が、タレやその技術を活用した商品化へ向け、渡辺さんに相談を持ち掛けたことがあったという。

 水揚げから半年経っても、刺し身でおいしく食べられる技術なのだから、当然、回転寿司にとっても魅力的な話だろう。日頃から回転寿司を利用する読者のなかには、マグロやサーモンといった定番のネタだけでなく、新鮮でうまい光り物・青魚が好きという人も少なくないはずだ。

 ただ、このプロジェクトは結局、立ち消えとなってしまった。詳しい事情は不明だが、イワシの水揚げ量は日によって大きく差があり、しかも、大量に獲れた際には、時間を置かず一気に処理しなければならない。「数社協力の下で」という協業化にも話が及んだらしいが、イワシなどを三枚下ろしにして、熟成塩タレに漬けてから真空冷凍するプロセスをこなすのは、1皿100円という売価を考えると厳しい道のりだったのか、うまい「イワシの握り」の安定供給は夢物語となってしまった。

 まったく残念な話だが、渡辺さんは熟成塩タレに関し、適正な利用を前提に契約書を交わせば使用してもらう考えだそう。とはいえ、現時点で「銚子うめぇもん研究会」の加入店以外の使用はないようだ。

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