リブゴルフとPGAツアー統合合意 米議会公聴会で明かされた“ガッカリするウラ事情”

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「お門違い」なリクエスト

 公聴会で明かされたPIF側からの要望・提案の中で誰もが驚かされたのは、「タイガー・ウッズとロリー・マキロイにリブゴルフのチーム・オーナーになってもらい、最低でも年間10試合に出てもらうこと」というものだった。

 ルマイヤン会長がウッズやマキロイとコンタクトを取った上で出した要望かどうかは、まったく不明である。しかし、年間10試合のノルマをウッズが受け入れるはずはなく、ルマイヤン会長の一方的な希望と考えるのが妥当である。

 そして、さらに一方的な希望と思われるのは、「ルマイヤン会長にオーガスタ・ナショナルとR&A(ロイヤル・アンド・エンシェント・ゴルフ・クラブ・オブ・セント・アンドリュース)のメンバーシップを授ける」という要望だ。

 そもそもオーガスタ・ナショナルもR&Aも、PGAツアーとは別の独立した機関・団体だ。そのメンバーシップをルマイヤン会長に授けることをPGAツアーに求めたところで、「まったくのお門違い」のリクエストとなる。

 そんな基本的な事柄を確認すらしないまま出されたPIF側からの要望は、ゴルフというゲームの未来のために十分に検討された上でのものとは思えない。「ゴルフ界の中心にいたい。中心でありたい」と語っていたルマイヤン会長の個人的な権力欲なのではないかと考えるのが自然であろう。

「ノーマン外し」を要望した理由

 一方、統合合意に至るまでの水面下の交渉段階では、PGAツアー側もPIFにいくつかの要望を出したそうだ。

 その中には、リブゴルフを率いるノーマンCEOを統合合意への交渉に加えないことや、ある時期をもってノーマンを解任することなどが含まれていたという。

 実際、統合合意の交渉において、ノーマンは完全に蚊帳の外に置かれていた。だが、ルマイヤン会長が最終的にノーマンの解任を承諾したかどうかは、いまなお不明のままだ。

 しかし、PGAツアーの選手たちへの説明も行わずに進めていた交渉段階で、モナハン会長らがいの一番に「ノーマン外し」と「ノーマン解任」を求めていたことは、あまりにもショッキングで情けない。

 ノーマンはメジャー2勝のレジェンドだが、モナハン会長らからすれば、かつてPGAツアーで戦っていた一選手なのだろう。そのノーマンがリブゴルフのCEOになり、古巣のPGAツアーを揺さぶってきたことは、とんでもない恩知らずのように感じられ、腹に据えかねていたのだと思う。

 リブゴルフはノーマンの財力ではなくPIFの支援を得て創設されたが、モナハン会長らにとってリブゴルフの創設は「ノーマンから売られたケンカ」のように感じられていたのではないだろうか。だからこそモナハン会長らは「ノーマン外し」と「ノーマン解任」にこだわり、早い段階からその要望をPIFに提示した。

 だが、こうした裏事情を知らされてしまうと、統合合意の根底にあるものは、ルマイヤン会長の権力欲とモナハン会長らの感情のように感じられてしまう。

 PGAツアー、DPワールドツアー、リブゴルフを今後どうしていくのか、ゴルフというゲームをどうやってどんなふうに成長・発展させていくのか。その大きな絵を描き出し、説明してほしかったからこそ開かれた公聴会だった。

 しかし、統合に合意したリーダーたちの胸の内を垣間見たゴルフ界は、もはや誰の何を信じたらいいのだろうかと首を傾げるばかりになりつつある。

舩越園子(ふなこし・そのこ)
ゴルフジャーナリスト/武蔵丘短期大学客員教授。東京都出身。早稲田大学政治経済学部経済学科卒。1993年に渡米し、在米ゴルフジャーナリストとして25年間、現地で取材を続けてきた。2019年から拠点を日本へ移し、執筆活動のほか、講演やTV・ラジオにも活躍の場を広げている。『王者たちの素顔』(実業之日本社)、『ゴルフの森』(楓書店)、『才能は有限努力は無限 松山英樹の朴訥力』(東邦出版)など著書訳書多数。1995年以来のタイガー・ウッズ取材の集大成となる最新刊『TIGER WORDS タイガー・ウッズ 復活の言霊』(徳間書店)が好評発売中。

デイリー新潮編集部

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