訃報がだんだん「知っている人」ばかりに… 最もショッキングだった訃報の記憶(中川淳一郎)

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 20代の頃、著名人の訃報をニュースで知った時、出演者が「すごい俳優でしたね」「よくあんなにたくさんのヒットソングを生み出しましたね」などと故人を賞賛している姿にはピンとこなかった。何せ、その人のことを聞いたことがないから。使われる映像も白黒だったりして、自分が物心ついた時、その人は引退していたりもしたため、テレビや映画で見たことがない人々が多かった。

 しかし、50歳を目前にした最近の訃報に接すると、大抵が知っている人なんですよ。漫画家の水島新司さん(享年82)なんて、小学生の頃から『ドカベン』『大甲子園』などでなじみ深かった。故郷・新潟市の商店街に、山田太郎をはじめとした7体の銅像を見にいったこともあります。

 ドカベン・大甲子園(高校野球時代)は、明訓高校の主力級以外の選手がまったく打たないという漫画でした。岩鬼、殿馬、里中、山田、微笑の5人でほぼ点を取る。上下、蛸田、高代、香車、渚、目黒といったあたりは『大甲子園』全26巻で各自1~2回活躍するシーンが出る程度。まぁ、全員が活躍していたら試合が終わらないため仕方がないのですが、とにかく扱いがひどかった。

 なーんて詳しく解説ができるわけですが、これは自分の死期が迫っていることも意味しますし、自分が大好きだった著名人の死期も迫っていることを意味しています。2020年に私は半隠居生活に入りましたが、その前の1年間、イベントスペースで2カ月に1回、「死ぬまでに会いたい人」をゲストに呼び、6回イベントを催しました。この人々と2時間以上じっくりと喋り、終わった後は打ち上げをしたのですが、心からやってよかったと思ったし、6人の皆さんがオファーを快諾してくれて本当にうれしかった。

 そう考えるとこれから20~30年後、リアルタイムで応援していたアスリートや、散々聞いたミュージシャンの訃報も知ることになるんだな、イヤだな、と思ったりもします。

 自分にとってもっとも早かったショッキングな訃報は、1991年のフレディ・マーキュリー。死因はHIV感染症合併症による肺炎でしたが、当時は「HIV感染=死」といったイメージがありました。しかも、フレディが亡くなる前、NBAのスーパースター・マジック・ジョンソンがHIV陽性を発表し、引退。私が通っていたアメリカの高校でも「まさかマジックもそうなってしまうのでは……」といった恐怖と悲しみが広がったことを思い出します。

 でも、マジックは63歳の現在も元気なので、本当によかった。しかし、同じレイカーズ出身者でも、コービー・ブライアントは2020年、ヘリコプター墜落事故で41歳の若さで亡くなってしまった。

 これからわれわれ世代は偉大なる人々の語り部になっていくわけですが、先日30代の若者に「たこ八郎が38年前、酔っ払って海に入って死亡した時、『たこ、海に帰る』みたいな言われ方していたんだよね」と言ったら彼女はキョトンとしている。「宅八郎って最近亡くなったんじゃないのですか?」と。

 なんと、宅八郎さんの元ネタがたこ八郎だと知らない世代が何千万人もいる時代になっているのです。

中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう)
1973(昭和48)年東京都生まれ。ネットニュース編集者。博報堂で企業のPR業務に携わり、2001年に退社。雑誌のライター、「TVブロス」編集者等を経て現在に至る。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』『ネットのバカ』『ウェブでメシを食うということ』等。

まんきつ
1975(昭和50)年埼玉県生まれ。日本大学藝術学部卒。ブログ「まんしゅうきつこのオリモノわんだーらんど」で注目を浴び、漫画家、イラストレーターとして活躍。著書に『アル中ワンダーランド』(扶桑社)『ハルモヤさん』(新潮社)など。

週刊新潮 2023年7月13日号掲載

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