浮気相手にも妻にも殴られ、硬膜外血種で緊急手術…それでも40歳夫は「妻を裏切った感覚がない」という根本的原因
2人からの“衝撃”
部屋に入ると、絵衣子さんは急におとなしくなった。莉菜さんがコップに入った冷たい水を渡すと、一気に飲み干した。
「僕は言い訳をしなかったし、絵衣子も責め立てなかった。莉菜も黙っている。とりあえず帰ろうと妻に言うと、『ここは動物の匂いがする』とつぶやいて、妻は立ち上がって出て行ってしまいました。莉菜がひどく怒っているのがわかった。僕も帰ったほうがよさそうだと腰を浮かした瞬間、頭に大きな衝撃を受けて一瞬、意識を失いました。莉菜にこめかみのあたりを思い切り殴られたんです」
それでも彼は立ち上がって妻のあとを追った。自宅に戻ると、妻はスーツケースに荷物を詰めていた。10歳の娘も一緒になって荷造りをしている。
「どこへ行く気だと言ったら、どこだっていいでしょと。明日にしよう、一晩考えようと言うと、あなたに言われたくないと、今度は妻に殴られました」
彼はそのまま意識を失った。気づいたら寝室の床で寝ており、外はすでに明るかった。会社に行かなければと思ったが、その日は土曜日だと気づいた。
「妻のことも莉菜のことも気になるんだけど、世界がぐるぐる回っているんですよ。今までにないめまいで。あまりにも気持ちが悪くて起き上がれないほどだったので、自分で救急車を呼びました」
硬膜外血腫で緊急手術となった。莉菜さんに殴られたとき転倒して後頭部を強く打っていたため脳に出血が起こっていたのだ。
「重篤なものではなかったけど、早く手術をしたほうがいいということになって。ひとりものだと嘘をつきました。それからはほとんど覚えていません。意識が戻ったときも誰も来ていなかった」
病院から妻に連絡をしてもらったのだが、妻は電話に出なかったという。莉菜さんも電話に出ない。
「信じられなかった。莉菜とは運命で結びついた関係ではなかったのかと。信じていたのは僕だけだった。妻の親戚である会社の先輩には、いずれバレることだからと思って、病院から連絡してもらいました」
先輩から「会社のほうは大丈夫だから」と伝言を受け取った。それから1週間ほどたって、後遺症もないと確認できたため退院した。
「自宅に戻ったら、家具や電化製品が消えていました。妻があわただしく引っ越していったんでしょう。がらんとしたリビングに座って泣きました。莉菜に連絡してみると着信が拒否されていた」
僕は両親とは違う
とりあえず翌日から出社した。先輩が「階段から落ちて負傷したことにしてある」とささやいてくれた。妻は親戚の家にいるという。
「あいつも気が強いから……。オレがなんとかするから、少し時間をくれと先輩が言ってくれましたが、悪いのはこっちですからね。妻とは腹を割って話したいけど、妻はそれを望んでいないようです」
この数ヶ月、あまりに怒濤の日々で気持ちがついていかないと俊太朗さんは言った。少し疲れた顔をしている。
「今はまったく性欲なんてありません。なんだか皮肉な話ですね。強烈な性欲をお互いに感じ取っていたのに、莉菜にあっさりと関係を断ち切られたのはショックです。一方で性的にはまったく満たされなかった妻だけど、娘もいるからなんとか修復したい。僕の一大事にも来てくれなかった妻だけど……。僕は妻を裏切ったという感覚がないんです。妻で足りないところを補っただけというか。僕と妻との関係、僕と莉菜との関係はそれぞれ違うから」
僕はやっぱり両親のような関係は結べなかったと彼はため息をついた。それどころかなにもかも壊してしまった。それなのに今なお、莉菜と会わなければよかったとは思えないなど、彼は思うがままの言葉を並べた。気持ちが整理しきれていないのだろう、ふたりの女性に未練たっぷりといった口ぶりだった。
完璧な関係などない。彼の両親の本音や本当の事情もわからない。わからないからこそ、彼は両親のような関係を羨ましく思っているのかもしれない。
「僕は両親とは違う、普通の家庭を目指したはずなのに。また家族3人で暮らしたいとは思うけど、どうなることか……。進展があったら連絡します」
そう言った俊太朗さんだが、今もひとり暮らしは続いているそうだ。
前編【父にも母にも愛人が…オープンマリッジな家庭に育った男性の告白「親子関係がそもそも普通じゃなかった」】からのつづき
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