浮気相手にも妻にも殴られ、硬膜外血種で緊急手術…それでも40歳夫は「妻を裏切った感覚がない」という根本的原因

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もしかしたら両親も…?

 このままでは自分が壊れてしまう。そのとき初めて、彼は「もしかしたら両親も性的な関係は持っていなかったのではないか」とふと思った。仲がいいことと、性的な関係をもつこととは別になり得るのではないか。そして両親はそれを実践していたのではないか。

「根拠はないんです。でもなんとなくそう思った。ふたりはいつも近い距離で顔を近づけて話しているような印象があるから、僕は子ども目線でベタベタしていると思っていたけど、それは性的関係とは違う話なのかもしれない。親の性的関係なんて知る術もありませんが、外で自由な恋愛を公認しあった結果、そうなったのか、あるいはそうなったから外での恋愛を認め合ったのか。そしてふたりは本当にそれで心身ともに満足していたのか。わからないことだらけでした」

 じゃあ、自分はどうするべきなのか、どうしたいのか。自問自答したが答えは出ない。もちろん、そんなプライベートなことは妻を紹介してくれた先輩にも言えなかった。

 自分を抑えつけるようにして暮らしてきた、と彼は言う。娘はかわいかったし、妻と揉めるのは嫌だった。だからその一点だけ見ないようにしながら生きてきた。

これはもう運命みたいなもの

 ところが今年初めのことだ。娘が日曜日に通っている絵画教室に付き添っていったら、突然、知らない女性に声をかけられた。

「完全に人違いでした。でもその女性は、僕が免許証を見せて人違いだとわかってからも、腑に落ちない顔をしていたんですよ。いつもなら娘を送り届けて、近くの喫茶店で時間を潰すので、時間があったらお茶でもと誘ってみたんです。彼女は莉菜と名乗り、姪を絵画教室に送ってきたと話してくれました」

 彼女が俊太朗さんと間違えたのは、「昔の彼氏」だという。興味をそそられて話を聞いた。人違いをしたことで少し気持ちが浮ついていたのか、莉菜さんはその彼のことを詳しく話し出した。

「端的に言うと、昔つきあっていた彼がある日突然、行方不明になったんだそうです。今も居場所がわからない。もう10年以上会っていないけど、きっと今の僕にそっくりなはずだと彼女は言う。でもしばらく話していたら、急に我に返ったみたいで『いやだ、私ったら何を言ってるんでしょう。ごめんなさい、こんなしょうもない話につきあわせて』って。よほど大事な人だったんでしょう。『ものすごく強く惹かれあっていた。何があっても別れるなんて考えられなかった』そう。どうやら相手は既婚者だったみたいです。思い出させて申し訳ないと言ったら、『あなたが謝る話じゃないわ』と笑い出して。感じのいい人でした」

 娘を迎えに行く時間が迫っていた。それなのに彼は彼女と別れがたくてたまらない。思い切って連絡先を聞き、LINEを交換した。

 その日の夜、彼が会いたいと打って送った瞬間、莉菜さんから「会いたい」とメッセージが入った。同時に送ったのだろう。これはもう運命みたいなものだと思った。

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