「あまちゃん」再放送でわかった根強い人気 名作を生んだ最大の功労者は石田ひかり「夫」
「あまちゃん」はなぜ熱狂を生んだのか
訓覇氏に指名された宮藤氏も期待に応えた。物語の軸となったのはヒロイン・天野アキ(能年玲奈、現のん・30)の成長記。朝ドラの王道である。「朝ドラ向きではない」と思われていた宮藤氏だが、朝ドラをよく知っていた。
また、近作のTBS「俺の家の話」(2021年)もそうだったが、宮藤作品はあちこちにギャグが散りばめられる一方で、悪党が登場しない。それは「あまちゃん」も共通していた。明るい作風となり、1日の始まりである朝に合っていた。
なにより大きかったのは、宮藤氏作品に共通する優しさが全編に満ち溢れていたこと。それを象徴していたのは第133話、東日本大震災を表したシーンである。震災を盛り込んだ朝ドラはこれが初めてだった。
宮藤氏は震災当日の実写映像を使わず、再現映像もつくらず、ジオラマとナレーションで表現した。それでも震災がもたらしたものが端的に伝わってきた。宮藤氏は自分のドラマによって誰かが1人でも傷つくのが嫌だから、実写や再現を避けたのだろう。
宮藤氏は被災地の宮城県栗原市出身である。地元は嫌いだったと常々言い、震災をフィクションの中に入れることには抵抗があったという。しかし、いざ書くとなると、やはり特別な思い入れがあったのではないか。そもそも、3・11の記憶がまだ鮮明だった「あまちゃん」の本放送時、震災を身近に感じることの出来ない脚本家がそれを書いたら、共感を得るのは至難だったはずだ。
再放送が話題なのは、本放送時と今の状況には似た面があるからではないか。本放送時は、視聴者が絆の大切さを深層心理で感じていた。非常時に一番頼りになるのは家族や友人、地域住民らとのつながりだと思い知らされていた。また、みんなが一丸となって被災地を復興させようという気持ちも強かった。
「あまちゃん」には、人間同士が結び付くことの尊さや美しさが全編を通じて描かれている。名作だったのは間違いないが、あの時期の放送だったから、観る側に空前の熱狂が生まれたように思う。
一方、今は3年余におよんだコロナ禍によって脆弱化した人間のつながりが再構築されている時期。やはり絆が求められている。本放送時に喝采を浴びたこの作品が再び歓迎されているのはうなずける。
振り返ってみると、朝ドラは最低でも10年に1度の頻度で視聴者を強く惹き付ける名作が生まれる。「おしん」(1983年度)、「ひらり」(1992年度下期)、「ちゅらさん」(2001年上期)、「カーネーション」(2011年後下期)、「花子とアン」(2014年度上期)、「カムカムエヴリバディ」(2021年下期)――。
おそらく、これらの作品のヒットも時代背景と無縁ではない。朝ドラに限らず、大当たりするドラマはみんなそう。分かりやすいのは「おしん」である。放送時は世の中全体がバブルに向かって突っ走っており、額に汗して働くことを嘲笑する風潮があった。一方で視聴者側はそれに疑問や不安をおぼえていたから、バブル前夜へのアンチテーゼのような苦労譚が熱狂を生んだのだろう。
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