【王位戦】佐々木七段の「新構想」に勝利… 藤井七冠の渋いとしか言いようのない一手とは

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 将棋の藤井聡太七冠(20)が佐々木大地七段(28)の挑戦を受ける王位戦七番勝負(主催:中日新聞、神戸新聞、北海道新聞ほか)の第1局が、7月7、8日の両日、愛知県豊田市の豊田市能楽堂で行われた。難解な中盤から抜け出した藤井が97手で佐々木を下し、4連覇に向けて先勝。第2局は休む間もなく7月13、14日の両日、兵庫県神戸市・有馬温泉の老舗旅館「中の坊・端苑(ずいえん)」で行われる。【粟野仁雄/ジャーナリスト】

「渋い」藤井の一手

 後手番の佐々木は、藤井の初手「2六歩」を「3四歩」と受けて角道を開いた。これは意外な一手だった。もちろん奇をてらったたわけではなく、藤井が得意とする「角換わり」を避けるのが狙い。そして「横歩取り」戦術に展開する新しい構想だった。佐々木はさらに前例のない展開に持って行き、「力将棋」に誘導する。これに藤井は慎重に応じた。

 互いに1時間近い長考をするなど、展開は非常にスローペース。2日目の午後になっても、ほぼ五分の形勢だった。その後、夕方になって佐々木が優位になった時間帯もあったが、次第に藤井が巻き返してゆく。

 藤井は終盤、「5一」に飛車を打ち込んだ。この飛車は「2二」に位置していた佐々木玉の底を狙うと同時に、浮いている佐々木の金に当たっていた。佐々木は金を取られれば大ピンチに陥るが、藤井の銀と交換するのが精いっぱいだった。

 藤井は「6四と」とし、攻めに行ったかと思わせた“と金”を後退させた。「渋い」としか言いようのない藤井の一手だった。

 これを見た佐々木は、おもむろに羽織を着て背筋を伸ばした。劣勢を必死に打開しようと前かがみになっていた時とは異なり、最早あまり将棋盤を見ていない。そして手をかざして投了を示した。まだ午後6時17分だった。

ミスを「咎められ」たと藤井

 7月3日の棋聖戦第3局目と同様、素人目には「ずいぶん早い」と感じる投了だった。しかし、ABEMAで解説していた飯島栄治八段(43)は、佐々木の勝率がAI評価値でまだ20%ほど残っていた頃から、「これは佐々木さん、投了するかもしれませんね」と早期の決着を予想していた。

 さらに飯島八段は「金取りにもなっていた『5一』の飛車打ちで決まったと言えるでしょう。その後の『5五銀』も決め手でした。藤井さんの読みの正確さが出ていましたね。攻めに行った“と金”を引いてゆく手も素晴らしい。盤上を制圧している駒が先手のほうが多かったですね」と藤井を称賛した。

 藤井は局後の主催新聞社インタビューで、「序盤の構想ミスを的確に咎められ、苦しい時間が長かった。佐々木七段の力を感じた」と話した。佐々木は「出だしは変化球としては有力だとは思っていた。序盤は五分にできたけど、その後が難しかった。『5四歩』では『1四歩』などと手を渡したほうがよかったかもしれない。『5五銀』から抑え込まれて明確に苦しくなってしまった」などと述懐した。

 佐々木の言った「手を渡す」とは、自分の手番になってもどの駒も動かさないほうがいいような局面になった際、戦局にあまり影響のない無難な駒を動かして相手の出方を窺うことを指す。

 藤井が口にした「咎める」というのも、将棋では非常によく使われる言葉だ。相手が指してきた場合、その場での相手の当然の弱点を引き出そうと指すことを意味する。

 例えば、1筋や9筋で歩がひとマス挟んで向き合っている時、先に突くと相手の香車で自陣を崩される。プロが突く時はもちろん思惑があってのことが多く、突かれた側は放置したりもするが、あえて応じるのが「咎める」である。頭を守れない相手の桂馬が跳ねた時、その桂馬の頭に歩を打ったりすることも「咎める」の一種である。

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