永山絢斗逮捕で「東リベ2」は大迷惑 制作前に「メディカルチェック」が導入されなかった“日本的な理由”

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「作品に罪はない」は本当か

「東リベ2」の公開を危ぶむ声が一時上がったことにより、あらためて「作品に罪はない」という言葉が使われた。だが、この言葉が正しいかどうかは誰にも判断できないはずだ。

「東リベ2」は前後編とも観た。魅力に溢れ、面白いのは間違いない。半面、公開が選択されたことにより、製作委員会の意図とは別に「薬物は犯罪の中でも軽いもの」という無言のメッセージが送られてしまった。若者の薬物禍が深刻化していることもあり、これは無視できない。

 仮に、完成した映画に出演している俳優1人が愛人殺害や強制性交で逮捕されたら、公開前日であろうが、間違いなく中止になる。出演者の殺人も強制性交もあり得ない話ではない。どちらも過去に著名な芸能人が起こした犯罪である。「東リベ2」の場合、製作委員会は苦しい選択を行い、悪意は一切なかったろうが、結果的に“薬物なら良い”ということになってしまった。

 こんな話を避けるためにも、出来る限り犯罪に関わりそうな出演者は排除すべきだ。永山被告の所属芸能事務所は、薬物検査を行っていなかったという。やはり各映画や各ドラマがメディカルチェックを行うべきだろう。

 市川猿之助容疑者が出演した映画「劇場版 緊急取調室 THE FINAL(以下、キントリ)」は、6月16日に公開予定だったが、同月1日に延期が発表された。事件が起きたのは5月18日、母・延子さん(享年75)に対する自殺幇助の疑いでの逮捕は6月27日。父の市川段四郎さん(享年76)も亡くなっている。

「キントリ」はなぜ公開されないのか

 猿之助容疑者が罪に問われることは予想できたとはいえ、製作委員会は逮捕前に公開延期を決めた。人の死が絡んでいるからでもあるのではないか。

 この作品はコミカルな風味もある。犯罪の軽重とは別次元の問題として、人の死が絡んだ事件の直後に笑いを提供するのは不謹慎とも考えただろう。

「キントリ」での猿之助容疑者も準主演級。悪の権化・長内首相を演じる。こちらも出演部分をカットしたら、作品として成立しない。

 撮り直すか、お蔵入りさせるかの判断も現状で行うのは難しい。「東リベ2」より状況は込み入っている。猿之助容疑者への捜査が動いており、ニュースが絶えないからだ。撮り直す場合、やはり天海祐希(55)らのスケジュールを新たに取らなくてはならないので、公開は早くとも半年先くらいになるはずだ。

 逮捕を受けてNHKは7月1日、有料動画配信サービス「NHKオンデマンド」で、猿之助容疑者が出演した大河ドラマ「風林火山」(2007年)、「龍馬伝」(2010年)、「鎌倉殿の13人」(2022年)などの配信を停止した。猿之助容疑者が登場しない回も配信停止としたのは、存在を想起させるからだろう。これはNHKの“憲法”とも言える番組基準を踏まえると、妥当な判断だ。

「法律を尊重し、犯人を魅力的に表現したり、犯罪行為を是認するような取り扱いはしない」(第10項「犯罪」)

 猿之助容疑者は起訴前だが、容疑を認めているので、犯人に準ずる立場。演技や役柄が魅力的に映ってはいけないのである。

 ほかにも諸規定があり、NHKは「作品に罪はない」とは考えていない。出演者が逮捕されると、躊躇なく撮り直す。

 民放の有料動画配信サービスでは対応が分かれる。テレビ朝日は「TELASA」で猿之助容疑者の出演作を配信停止にした。一方、TBSは資本業務提携先の「U-NEXT」を通じて「半沢直樹」(2020年版)を配信中。フジテレビは「FOD」で配信を継続している。

 それぞれの民放の素顔は営利を追求する私企業なのだから、判断は分かれる。これは仕方がない。

 半面、各局の判断がバラバラだと視聴者が困惑しかねない。配信時代なのだから、出演者が犯罪を起こした際の配信のルールを日本民間放送連盟(民放連)で定めたほうがいいのではないか。

高堀冬彦(たかほり・ふゆひこ)
放送コラムニスト、ジャーナリスト。大学時代は放送局の学生AD。1990年のスポーツニッポン新聞社入社後は放送記者クラブに所属し、文化社会部記者と同専門委員として放送界のニュース全般やドラマレビュー、各局関係者や出演者のインタビューを書く。2010年の退社後は毎日新聞出版社「サンデー毎日」の編集次長などを務め、2019年に独立。

デイリー新潮編集部

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