抗がん剤治療をせずに「ステージ4から4年」「腫瘍縮小状態を維持」 当事者が明かす「がん共存療法」

ドクター新潮 ライフ

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“後悔はしません”

 私は、臨床試験開始時にはもちろん、開始後も、参加者と何度も、臨床試験の意義や、リスクを確認しながら治療を続けている。その中で、一番大切にしていることは、「この臨床試験はエビデンスのあるものではないこと。従って、目的としている延命効果があるかどうかは不明であること。効果がなければ、そう遠からず死に直面する可能性が高いということ」の認識を共有することだ。

 そして、「最善を期待しつつ、最悪にも備えてください」とお願いし、「もし効果がなかった場合でも、こうやって臨床試験へ参加したことが、あなたの人生の後悔にならないようにしてほしい」とお願いする。

 全ての方が「それは承知の上で、自らの意思で選んだ参加です。後悔はしません」と答えてくれる。

 それでも私は、「もし臨床試験の継続が辛くなったら、遠慮せずにおっしゃってください。あなたの大切な人生です。いつでも中止可能ですよ」と付け加えることにしている。

 来年の今頃には、臨床試験の結果を公表できるだろう。その間、私は、参加者の方々と共に「最善を期待しつつ、最悪にも備えて」粛々と臨床試験に臨みたいと思っている。

病との闘いで体力を消耗させるよりも…

 本稿を書いている最中の5月27日土曜日、朝日新聞朝刊の読書欄に拙著『ステージ4の緩和ケア医が実践する……』の書評が掲載された。その数日前に、新潮社の担当者から書評が載る予定ですよと連絡が入ったので、早朝、ドキドキしながら新聞を開いた。

 そして評者を見て驚いた。先述した医療法人社団悠翔会の佐々木理事長だったのだ。そのことを全く知らなかった。だが書評を読み終えた後、私は胸が熱くなるのを禁じえなかった。拙著を世に問うたことも、臨床試験に取り組んでいることも、表層ではなく、俯瞰的に評価されていることが心にしみたのだ。

 ご本人の許可を得たので「『死を待つだけ』を覆す情熱」と題されたその書評の一部をご紹介したい。

「著者と僕の最初の出会いは30年前、一冊の本だった。タイトルは『病院で死ぬということ』。医学を学び始めたばかりの僕にとっては、自分が抱いていた医療に対するイメージとの乖離(かいり)に衝撃を受けた。(中略)著者はその後、在宅ホスピスという新しい領域を自ら開拓していく。(中略)

 その著者自身ががん患者になった。(中略)ステージ4。予後の見通しは厳しい。このような状況において大切なのは、残された時間を大切に使うこと。勝ち目のない病との闘いで体力を消耗させるよりも、穏やかな日々を取り戻せるように支援すべきだ。これは彼が在宅ホスピスに取り組むモチベーションでもあった」

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