百貨店を「科学」して「個客業」へと進化させる――細谷敏幸(三越伊勢丹HD社長CEO)【佐藤優の頂上対決】
三越伊勢丹の“まち”を作る
佐藤 考えてみれば、確かに百貨店はかなり大きな組織体です。
細谷 そうです。百貨店と、それを支える四十数社の会社も磨いていくことで、次の段階には、百貨店を核にした“まちづくり”を行っていきたいんですよ。グループの会社を結集して「まち」を作りたい。
佐藤 それは面白い。
細谷 決済やシステム、警備や掃除まで、「まち」を運営するあらゆることを私どもでやる。例えば、警備員がとてもクールで、清掃もテーマパークの清掃のように、それも含めてアトラクションの一環といった状態にする。そして「まち」で何か買う場合には、私どものエムアイカードや三越伊勢丹アプリを使って決済していただく。そうすれば、かなり特徴のある「まち」が作り出せます。
佐藤 もともと百貨店はその街の文化を作り出しているところがありますから、街づくりとは親和性が高い。
細谷 百貨店には、資産活用が十分でないことが三つあります。まず一つは「不動産」です。百貨店は、その周辺の土地建物を百貨店のためだけに使っています。それらは自分たちの事務所にしたり駐車場にしたり、あるいは商業地として貸し出したりするくらいしかしていない。
佐藤 新宿にも二つ、大きな駐車場がありますね。
細谷 それを活用しなければなりません。それから「時間」です。百貨店は主に午前10時から午後8時までしか営業していません。残りの14時間は、利益を生み出していない。ホテルもオフィスも24時間体制なのに、10時間だけで勝負している。
佐藤 それは新しい視点です。
細谷 もう一つは「のれん」です。私どもが信用のスタンプをつけると、価値が上がります。それを店内のキュレーションの中でしか使ってこなかった。この信用力をどうマネタイズするか、考えなければならない。
佐藤 確かに三越と伊勢丹がお墨付きを与えれば、確かなもの、ということになりますね。
細谷 この三つを考え合わせていくと、「まち」づくりに帰着します。百貨店のおもてなしや感度の高さをその周辺にうまく染み出させていくことで、他にない新しい「まち」を作る。
佐藤 新しい形のディベロッパーが誕生するわけですね。
細谷 日本は人口減少時代に入っています。私は百貨店をそれに耐えられる形に変えていかなくてはいけない。そのためには、いかに人を集めるかが重要になる。だからどこにもない「まち」を作って、多くの方々に来ていただく。そして日本でうまくいけば、パッケージにして海外に売り出すことも考えたい。いつかどこかの国の財閥から、三越伊勢丹の「まち」を作ってくれ、と頼まれるようになったら、うれしいですね。
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