百貨店を「科学」して「個客業」へと進化させる――細谷敏幸(三越伊勢丹HD社長CEO)【佐藤優の頂上対決】
外商改革
佐藤 そうしたきめ細かなサービスでは、もともと企業や個人顧客のもとに赴いて営業を行う「外商」がありますね。
細谷 はい、その外商もスキームを拡大させています。これまではお客さま一人に対して、私どもの担当が一人ついていました。でもこの数年、外商はシュリンク(縮小)していたんです。
佐藤 富裕層は増えているので、外商は伸びたと思っていました。
細谷 その1対1の関係では、どうしてもご提案に限界が生じるんです。ですから、複数でご対応できるようチーム制にして、バイヤーを加えたり、時にはAIを使って購買活動を分析したりしながら、百貨店にないものまで含めて、幅広い商品のご提案をできるようにしました。
佐藤 例えばどんな商品ですか。
細谷 百貨店にないものなら、マンションやスポーツカーなどです。車なら、どのディーラーがお客さまにふさわしいか、というやりとりをする。最近はヘリコプターのお問い合わせもありました。外商は、お客さまと深く付き合えば付き合うほど、どんどんアイテムが広がっていきます。
佐藤 つまり、コンサルタント的な役割を担うようになる。
細谷 その通りです。店内にあるものもないものも、私どもが厳選して集め、そしてご提案する。つまりキュレーションです。それをお客さまの側に立って行う。チームにすることで、これが非常にうまく回り始めました。
佐藤 合併前の三越と伊勢丹にはそれぞれ独自のカラーがありました。特に外商は、独自の文化が残っていたのではないですか。
細谷 そうですね。三越は「徹底的に顧客視点でおもてなしします」という文化で、伊勢丹はモノに焦点を当て「こだわりの商品を提供します」という傾向がありました。この両者を合わせると、顧客視点で面白い商品を提供できる。ですから、両者を融合して一つのチームにしました。それで伝統的なものから最先端の商品まで幅広くご提案できるようになっています。
佐藤 そうしたサービスには、プライベートジェットを持ち、羽田のスポット(駐機場)が空いたから来日するような海外の富裕層も関心があると思います。
細谷 実は昨年10月に「外国顧客担当」を作りました。日本にお住まいの外国人富裕層や、訪日された富裕層を対象にしたチームです。まだ半年ですが、予想以上に実績が出ています。
佐藤 外国人顧客はどのように獲得するのですか。
細谷 近頃は、お客さまによるご紹介も多いです。外国法人のお客さまにご紹介いただくこともあります。
佐藤 プライベートバンキングの世界と似ていますね。これはブルーオーシャン(競合相手のいない市場)ではないですか。
細谷 これまでまったくありませんでしたから。外国人に限らず、外商にはまだまだ大きな可能性があります。例えば、お客さまのお品物へのサポートを行う「アイム グリーン」という事業も始めました。
佐藤 リサイクルですか。
細谷 お客さまから「買ったあとのクローゼットの整理も伊勢丹が助けてくれたらよいのに」という声が寄せられていたんです。そのご要望にお応えして、使われなくなったものをおお買取・お引取し、次に繋げるという循環スキームを作りました。
佐藤 普段からたくさん服を買っているでしょうし、高齢になってケア付き老人ホームに入る時などは、整理する必要がある。だから大きな需要があるでしょうね。
細谷 お客さまごとにさまざまなニーズがあります。また、やはりクローゼットを他人に見せるのは抵抗があるんです。でも外商の人なら普段から密につながっていますから、安心感がある。
佐藤 外商はもちろん富裕層が対象ですが、百貨店全体としては、どのくらいの層をターゲットにされているのですか。
細谷 特にどこを狙って、という方針はありません。私どもはエムアイカードを持っていただいて、どのくらい深いお付き合いができるかで考えています。
佐藤 福岡の岩田屋三越の社長時代には、高額お買い上げの顧客用の会員制ラウンジを作られたそうですね。
細谷 年間に一定額以上のご利用があるお客さまのために岩田屋本店に新しいラウンジを用意しました。通常、売り場の隅に、どこが入り口かわからないような形で作ることが多いのですが、ここでは誰でも通れる時計売り場の真ん中に、あえて透ける覆いにし、「見せるラウンジ」として設置しました。そこに入ることが、ステータスであると感じていただきたかったのです。
佐藤 そうした場所では、独自のコミュニティーが形成されるものです。
細谷 そのラウンジでも、奥さま方がお友達になられて会を作られたようです。こうした私どもとお客さまとの付き合い方を見ている中間層の方々が、こだわりのものならここで買いたいと思って来店していただけるようになればうれしいですね。そうなれば、お客さまの幅がぐんと広がっていきますから。
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