天下の嫌われ者「転売屋」はなぜ根絶できない? 地方民が明かす「東京の人には理解できない」切実な事情

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以前は買えたものが買えなくなった

 メーカーや問屋側の都合で、商品が小売店に回ってこなくなった事例もある。近年高騰が相次ぐ、ロレックスなどの高級腕時計がわかりやすい例だ。

 ロレックスは基本的に、1990年代後半くらいまでなら問屋と取引ができれば田舎の時計屋でも仕入れることができた。ヴァシュロン・コンスタンタン、オーデマ・ピゲなどの雲上ブランドの時計も、扱っている店はけた違いに多かったのである。

 筆者は秋田県の田舎町の出身だが、1990年代初頭なら、ロレックスを店頭に並べていた時計店は確認できただけでも町内に2店あった。当時の町の人口は2万人程度である。ロレックスは確かに高価ではあったものの、市町村の代表的な時計屋であれば必ず置いてあるほどメジャーな時計ブランドだった。

 それが2000年以降、メーカー側のブランド化戦略の一環で、取扱店が急激に減少していった。それでも老舗の地域一番店は扱えていたのだが、2010年以降は加速度的に数を減らしてしまい、ほぼ大都市の百貨店か高級時計店でしか手に入らなくなっている。しかも、腕時計のために欲しくもない壺や絵画を買って外商顧客になっても、手に入る可能性は低くなっているという。こうなると、転売屋から買った方が合理的と判断する人が増えるのも、当然といえよう。

小売店が苦境に喘ぐ

 さらに、ポケモンカードやガンプラなどのおもちゃ、高級ブランド品といったあらゆる分野で起きていることだが、コロナ禍の長期化、少子化、過疎化の進行に伴い、地方の小売店が閉店に追い込まれる例が後を絶たない。そのため、地方では一昔前なら誰もが店頭で買えたり、予約すれば取り寄せられたりしたものの入手が難しくなりつつある。

 特に、地域の富裕層が利用していた百貨店が消滅すると、嗜好品の買い物難民が確実に増加する。地方では「百貨店でしか買えない」ものが多いためである。

 島根県では「一畑百貨店」が2024年に閉店すると発表し、騒ぎになっている。東北地方は百貨店が次々に消滅しており、2017年、宮城県仙台市、仙台駅前の「さくら野百貨店仙台店」が閉店し、2020年には山形県山形市の「大沼」も経営破綻した。地方の百貨店は苦境に喘いでいる。

 ロレックスを例に挙げると、かつて上記のほとんどの百貨店で取り扱いがあった。しかし、東北地方では宮城県仙台市の1店舗しか正規で扱う店がなくなり、山陰地方に至ってはゼロである。そのため、外商顧客までもがロレックスを買えなくなる事態が続出している。そういった買い物難民たちは、転売屋、もしくは転売屋が中古時計店に流した在庫から買っているのである。

 転売屋から買う人々の意識は共通している。「欲しいものを手にするためには転売屋を利用するしかない」状況のため、利用しているのが現実であり、「できることなら転売屋なんかから買いたくない」のが本音なのだ。好き好んで定価より高い値段で買いたい人などいない。しかし、「欲しいものをどうにかして手に入れたい」という欲望を抑えることは難しいのである。

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