南太平洋を手に入れたい習近平が日本軍から学んだもの “教本”は旧陸海軍の戦史?
中華国恥図とは
戦史叢書には、南太平洋だけでなく数冊にわたってマレー半島以西における旧日本軍の行動も記されている。そして中国もまた勢力範囲を「一帯一路」政策によって、“海のシルクロード”とよばれるマレー半島の西側にまで広げている。大英帝国の東洋艦隊の基地だったスリランカに巨額の経済援助を行い、2017年、99年間という長さでハンバントタ港の租借権を得た。
元海上自衛隊海将補で、笹川平和財団海洋政策研究所の秋元一峰特別研究員が語る。
「中国がスリランカに拠点を得たのは、インド洋からアフリカ・地中海へ至るための中継地が欲しかったからでしょう。軍事面からはインドがスマトラ島の北西にあるアンダマン・ニコバル諸島に海軍基地を持っている。だから、軍港として利用する思惑もあるでしょう」
それにしても、南洋に飽き足らず、さらなる勢力拡大を図り海洋進出を続ける中国の貪欲さは、どこからくるのであろうか。それを示す一枚の地図がある。前出の田中氏が見つけた「中華国恥図」だ。
1936年、蒋介石が地理学者の白眉初に描かせた「海疆南展後之中国全図」によると、中国の東側の国境・領海は、朝鮮と満州の境から始まり、鴨緑江周辺から東シナ海に下るとある。国境はそこから台湾の西側を通り、南シナ海をぐるりと一周している。また、それ以前の「中華建設新地図」(白眉初の作成)では台湾の西を南下し海南島と西沙諸島までが境界だった。
事実とは異なる地図だが…
ところが、太平洋戦争直前の1939年に改訂された地図になると版図はとたんに拡大する。これが「中華国恥図」だ。
そこでは、北側はバイカル湖、東は樺太から北海道の宗谷沖を下り、日本海の中央を通って、対馬、五島列島の手前までが領海だ。さらにトカラ列島、沖縄全島はもちろん領土、そして台湾はもちろん、フィリピンのセレベス海を抜け、旧ボルネオ島の西側半分も、領土だとしているのだ。
田中氏によると、
「これは、清朝以前の冊封国をも国土と見なしているもので、事実とは全く異なる。国威発揚を狙って作成されたものなのでしょう」
問題なのは、中国の若者たちが、今も昔も、これが本来の中国領土だと信じ込まされて育ってきたことだ。この「中華国恥図」の冒頭文には、ユーラシア大陸もわが領土だとばかりに次のように書いている。
〈わが国は清代全盛期、威信は四隣にとどろき、諸国は版図に入るか入貢して藩と称した。わが国の権力の及ぶところはオホーツク海、日本海、太平洋、アラル海、アフガニスタン、バイカル湖、外興安嶺、マラッカ海峡、スールー海に至る世界の大国であった。しかしわが国は辺境と属国を管理することを知らず、ヨーロッパ諸国が次第に蚕食した。アヘン戦争、清仏戦争、日清戦争、義和団事変の後、藩邦を割譲され尽くした〉
中華国恥図とは、かつての中国領土は今よりずっと大きく、現状に甘んじているのは“国の恥”という意味だ。現在の中国共産党指導者は中華国恥図を教えられた世代だ。
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