南太平洋を手に入れたい習近平が日本軍から学んだもの “教本”は旧陸海軍の戦史?
気になる動き
実際、南海支隊はニューギニア島の険しいスタンレー山脈を越えて豪州軍最大の根拠地ポートモレスビーを攻めるが苦戦している。もし、MO作戦が成功していたら、マッカーサー司令官はシドニー近くまで後退を強いられていただろう。FS作戦も山本五十六連合艦隊司令長官の強引なミッドウェー海戦が優先され作戦は頓挫した。それから80年余り、中国が見せている動きは、まるでMO作戦、FS作戦をなぞっているかのようだ。
神田から戦史叢書が消えて間もなく、中国はサモアを皮切りにフィジー、そしてニューカレドニアと資金力にものをいわせた経済援助を始める。港湾の整備を持ち掛け、表向きは商業埠頭を造るという名目で“赤いビジネスマン”を送り込んだ。現在、オーストラリアのダーウィンには中国企業が工事を請け負った長い埠頭が完成している。いつでも軍用に使える施設で、さらには内陸部にまで入り込み土地を買いあさっている。銅や錫の鉱山を探しているとされる。
気になるのはニューカレドニアをめぐる動きだ。同島はフランスの海外領土で、数千名の軍隊が駐屯しているといわれる。本来であれば中国を警戒するべきだが、中・仏の関係は急接近。今年4月には、突如としてマクロン大統領が大勢の実業家を引き連れて訪中したのはご存じの通りだ。しかも、マクロン大統領は台湾問題について「欧州は米国と中国のいずれにも追従すべきではない」と発言する始末だ。
各国で港の拡張を強化
南太平洋諸国に対する中国の戦略について、防衛研究所中国研究室の飯田将史室長が解説する。
「フィジーとパプアニューギニア周辺は金、銀、ボーキサイト鉱石のほか天然ガスも出ていて、この一帯は地下資源が欲しい中国にとって極めて重要です。しかし、アメリカとオーストラリアがより懸念しているのは、昨年、中国がソロモン諸島との間で安全保障協定を結んだこと。その中に軍事条項も入っているとみられているのです」
南洋の島々に経済的メリットと安全保障を提供することで、アメリカやオーストラリアとの関係にくさびを打つというわけだ。
「中国は南太平洋だけでなく、カンボジア、スリランカ、パキスタンでも港の拡張を強化しており、軍艦を寄港させるのではないかと懸念されています。米豪の軍事力を遮断する中国の試みは十数年前から行われており、そのやり方は“A2/AD(接近させない。領域に入るのを拒否する)”を目的としている。これは、アメリカ軍が太平洋からオーストラリアにまで展開するのを阻止しようとした日本軍のFS作戦に似ている。実際、旧日本軍もアメリカがオーストラリアに近づくのを妨害しようとしました。現在、中国は攻撃型原潜を多数保有しており、空母が南太平洋に出る時にはこれらも周辺に展開するのではないかとみられている。そうなるとアメリカ軍は、危険を冒さないと近づけなくなります」(同)
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