南太平洋を手に入れたい習近平が日本軍から学んだもの “教本”は旧陸海軍の戦史?

国際 中国

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なぜ買い占め?

 ここ数十年の中国の海洋進出はすさまじい。その道しるべとして、彼らは戦史叢書を買いあさっていたのだろうか。実際に中国は、かつて日本海軍が進駐したラバウル、ニューギニアだけでなく、最近ではソロモン諸島の首都、ガダルカナル島のホニアラにも進出し、現地に浸透している。

「アメリカ合衆国は、南太平洋諸島の島々の安全保障を主にオーストラリアに任せていました。しかし、いつの間にか中国人ビジネスマンが食い込み、油断しているうちに農地や港湾の利権を拡張していったのです。中国の経済力が弱かった頃は、誰も危機感がなかったのです」(田中氏)

 現在、戦史叢書の内容を把握することは難しくない。国会図書館をはじめとして、全国の主要な図書館に収蔵されているし、防衛研究所によってデジタルアーカイブ化されてもいるので大枚をはたいて買い求める必要はない。

 だが、中国の貪欲な海洋進出を目の当たりにしたとき、同書は、彼の国が太平洋に何を求めているか改めて教えてくれる。今なお中国が覇権獲得を、加速させているかのように見えてならないのだ。

「MO作戦」「FS作戦」

 戦史叢書において「南洋」に関する記録は20巻近くに及ぶ。そこに書かれた日本軍のどんな行動に中国は関心を持っていたのか。私が注目しているのは「MO作戦」と「FS作戦」とだ。

 パプアニューギニアの首都ポートモレスビーは、ラバウル航空隊を苦しめた連合国軍の航空基地があったところだ。当時の最高司令官はマッカーサーである。連合国軍航空基地は4本の滑走路を持ち、米軍のB-17爆撃機でラエやラバウルの基地を夜間爆撃した。対する日本軍は戦線の拡張と米豪連携遮断の両面作戦を立てる。それは、オーストラリアの前線基地だったポートモレスビーを占領し、そこからオーストラリアへ侵攻するというものだ。これが「MO作戦」と呼ばれた。

 昭和16年、南太平洋を戦域とする日本海軍は米軍のオーストラリア進出を阻止するため、ニューブリテン島の東端・ラバウルに集結。西側はポートモレスビー、それに続くニューギニア、東側はソロモン諸島からガダルカナルへの進出が計画された。

 これと並行するように、当時の海軍軍令部作戦部第1課長の富岡定俊大佐は「FS作戦」を構想する。サモア、フィジー、ニューカレドニアを結んだ線上に基地をつくり、米艦隊のオーストラリアへの進出を遮断するものだ。

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