南太平洋を手に入れたい習近平が日本軍から学んだもの “教本”は旧陸海軍の戦史?
旧日本軍をほうふつとさせる海洋進出を続ける中国。その姿は、かつてわが国が資源を求めて繰り広げた「南方作戦」をなぞるかのようである。南太平洋から「海のシルクロード」まで勢力を広げる彼の国に、私たちはいかに対峙するべきか。早瀬利之氏がレポートする。
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1980年ごろの話になるが、東京・神田の古本屋街から『戦史叢書』が次々と消える珍現象が起きていたことをご存じだろうか。
戦史叢書は全102巻、防衛庁防衛研修所戦史室が編纂し、1960年代から80年代にかけて朝雲新聞社から発行された戦記書物だ。内容は戦中の資料を踏まえ、旧陸海軍の元将校たちが、作戦参謀や前線の指揮官、および兵士たちに聴き取りし、詳細に書き残した太平洋戦争の戦史録である。
筆者も40年ほど前、陸軍中将にして軍事思想家であった石原莞爾の研究に取り組んだ際、神田の古本屋で買い求めたことがある。だが、当時全巻67万円。やむなく関東軍編の2巻のみを部分買いしたものだ。同世代の評論家・故立花隆さんは「オレ、全巻持ってる」と自慢していたが、状態のよいものだと今では全巻で200万円以上はするだろう。
中国大使館関係者らが買い占め
歴史研究家で5年前までオーストラリア、南洋諸島を視察していた田中宏巳防衛大学校名誉教授が、珍現象のタネ明かしをしてくれた。
「戦史叢書は、かなり前から中国大使館関係者や、中国からの留学生と思われる人たちがごっそりと買い占めていたことが知られています。これは旧日本軍が南方に進出する際に調査した、鉱石、原油などの地下資源を記した場所をさぐっていると見られていました」
田中氏は著書『真相 中国の南洋進出と太平洋戦争』(龍溪書舎)の中でもこう書いている。
〈人口の重心が内陸部から沿岸部へと移り、海の近くに世界経済と直結する産業社会が形成され、海洋国家としての姿を見せ始めたことである。古代から続いてきた内陸アジアに目を向けた大陸国家ではなく、世界と海洋で交流する海洋国家に変貌を遂げてきたことである。(中略)内陸アジアには豊かな未来がなく、海洋に向かって発展することが国家の繁栄を実現し、生き残る道であると確信しているかのようだ〉
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