各界の「現役アラ100」を14人取材した著者に聞く 5つの共通点と多くの人が食べていたもの
現役100歳、5つの共通点
そこで木村さんは、谷川さんを筆頭に、“アラ100”の現役スーパーエイジャーを訪ねる旅に出た。2022年夏の谷川さんからはじまり、以後、今年春までの間に会った人は、14人にのぼった(以下、本書の掲載順。年齢は当記事の取材時)。
谷川俊太郎(詩人) 91歳
道場六三郎(和食料理人) 92歳
樋口恵子(評論家) 91歳
野見山暁治(洋画家) 102歳 ※6月22日、逝去。
大村崑(喜劇役者) 91歳
大川繁子(保育士) 95歳
鮫島純子(エッセイスト) 101歳 ※1月19日、逝去。
室井摩耶子(ピアニスト) 102歳
玉川祐子(浪曲曲師) 101歳
三浦雄一郎(プロスキーヤー・冒険家) 91歳
杉浦範茂(イラストレーター) 91歳
暉峻淑子(経済学者) 95歳
渡辺貞夫(サックス奏者) 90歳
青木悦子(郷土料理研究家) 90歳
「このうち、ほとんどの方は、いままでに仕事でお世話になったり、あるいは直接お会いはしていないものの、ご著書やお仕事を拝見して、関心のあった方々です。実は、当初の候補リストは100人ほどになったんです。それほど、現役100歳って、たくさんいらっしゃるんですよ。でもスケジュールが合わなかったり、遠方だったりで、まずはこの14人でひと区切りとしました」
この14人のうち、もっとも印象に残った人は、誰だったか――。
「それを聞かれると思いました(笑)。残念ながら、一人をあげることは不可能です。みなさん、それぞれがあまりに個性的ですから。ただ、さすがに14人にもお会いすると、共通点も見えてきます」
いまになってみると、現役100歳には、主に5つの共通点があったという。
「まず考え方がポジティブで明るい。洋画家の野見山暁治先生など、これからは『女の裸を描いてみたい』とおっしゃるんですよ。102歳の抽象画家が! 『男にとって女は永遠の謎。男はいつも性の話をする。女はいくつになっても恥ずかしがる。性は謎だ』なんて哲学的なことを口にされて……」
残念ながら野見山さんは、本書刊行の直前に逝去された。『四百字のデッサン』などでも知られる名エッセイストでもあった。木村さんが会った14人のなかで、もっとも遠方に在住していたが(福岡県糸島市)、目の前に唐津湾が広がる風光明媚なアトリエで、忘れられない取材だったという。
「次に、みなさん、ご自分の仕事に誇りをもっておられる。ピアニストの室井摩耶子先生が、『ベートーヴェンの熱情ソナタを弾けるようになったのは90歳を過ぎてから』と言われたのには驚きました。しかも、いまでも一人暮らし! 『私はお一人様の専門家だわね』なんて楽しそうに話されていました」
古い映画ファンは、1955年の映画『ここに泉あり』をご存じだろう。群馬交響楽団をモデルにした名作だ。あの映画で、山田耕筰が指揮する横でピアノを弾いていたのが、30代半ばの室井さんである。
「三点目は、自分は自分、人と自分を比べていないこと。イラストレーターの杉浦範茂先生は『絵は自分で好きなように描けばいい』、サックス奏者の渡辺貞夫さんは『自分の音を納得できるまで突き詰めたい』と言っています。四点目は、みなさん、生まれ変わっても、また同じ仕事をやりたいと思っていること。浪曲曲師(三味線)の玉川祐子師匠は、『生まれ変わっても、まだまだ浪曲をやりたい。浪曲師(歌)でうなってもいい』と張り切っていました」
そして五点目の共通点には、木村さん自身も感動させられた。
「みなさん、親に感謝されていました。丈夫な身体と寿命を授けてくれたご両親に対して、ちゃんと敬意をもっておられる。気持ちがあらたまる思いでした」
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