NHK大河ドラマの見せ場で“最大級の歴史の歪曲”…「築山殿の死」に無理がある3つの点
歴史のねじ曲げは避けてほしい
第25話「はるかに遠い夢」では、番組の最後に流される関連場所の紀行「どうする家康ツアーズ」で、松本潤と有村架純が築山殿の最期の地とされる佐鳴湖、彼女が埋葬されたという西来院、そして浜松城を訪れた。
松重豊が「瀬名は悪女であるという記述は、すべて江戸時代のもの。同時代の史料には残っていません」とナレーションした。それを受けて松本が「あれだけ残っていないって不思議だし」と言うと、有村が「だからほんとうに歴史というのは、その間にどういう感情があって、どう働いてたかっていうのは」とつなぎ、松本が「わかんないね」と閉めた。
築山殿は悪女ではなかった可能性が高い、という脚本家、またはNHKサイドの言いわけだろうか。たしかに、築山殿を「悪辣な妻」と「語り継」 いだのは、みな江戸時代の史料である。
しかし、問題は彼女が悪女かどうかではない。徳川家が武田にひねりつぶされそうな状況下で、築山殿が息子を守るために武田と内通したことには、彼女なりの「正義」があったはずである。ドラマもそこを堂々と押せばよかったのではないだろうか。
大河ドラマもドラマである以上、「わかんない」ところは想像力で補う必要があり、脚本家の腕の見せどころである。しかし、悲劇を美しく描いて涙を誘うために、最新の研究成果を無視し、曲げようがない史実をねじ曲げていいという話ではないだろう。それでは大河ドラマを歴史ドラマと認識している多くの視聴者に対する裏切りになり、結局は、視聴率によって手痛いしっぺ返しを食らうはずである。