なでしこ代表を外れた天才・岩渕真奈が語ったドイツW杯 「力が足りなかった」(小林信也)

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気持ちを託せたら

 この12年間、メディアで目にする真奈のニュースは、ケガに絡むものが多かった。右足首、右足小指の骨折、右膝内外の側副靭帯損傷。一体何度手術を受けたのか。私は彼女が志半ばでピッチを去るのではないか、とずっと案じていた。

「普通、あれだけケガをするとサッカーから離れてしまうものですけどね」

 小島も安堵のまなざしで言った。実は関前SCは当時から「夏休みは練習しない」。理由を聞くと、「夏休みは家族と過ごす期間でしょ」、小島はさらりと言った。それを真奈に尋ねると、

「私はどっちにしても友達と公園でサッカーボールを蹴っていましたから」

 この言葉を小島に伝えると、うれしそうに笑った。

「子どもたちはどうせ集まってボールを蹴る。やらされるより、やりたくてやる方がサッカーを好きになる。真奈も、間違いなくサッカーが好きなんですよ」

 そのチーム出身現役Jリーガーが真奈の兄・良太(藤枝)を含め4人もいる。

 7月20日、女子W杯が開幕する。女子サッカーで一人だけ男子レベルのプレーを展開していると評され、彼女に連動できる選手がいないのが悲運といわれた真奈が、今度こそ天才の名にふさわしい輝きを見せる瞬間を楽しみにしていた。が、代表の名簿に真奈の名はなかった。発表を受け彼女はツイッターにこう書いた。

〈今回メンバーに入る事はできませんでしたが、チームのみんなに気持ちを託せたらなと思います。なでしこジャパンへの応援よろしくお願いします〉

小林信也(こばやしのぶや)
スポーツライター。1956年新潟県長岡市生まれ。高校まで野球部で投手。慶應大学法学部卒。大学ではフリスビーに熱中し、日本代表として世界選手権出場。ディスクゴルフ日本選手権優勝。「ナンバー」編集部等を経て独立。『高校野球が危ない!』『長嶋茂雄 永遠伝説』など著書多数。

週刊新潮 2023年7月6日号掲載

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