なでしこ代表を外れた天才・岩渕真奈が語ったドイツW杯 「力が足りなかった」(小林信也)
輪から離れた存在
「あまり騒がないでほしい」
両親の意向を尊重し、私はただ遠くから見ていた。今回初めてリモートでイギリスにいる真奈と話した。画面に現れた彼女は髪を肩までおろし、すっかり大人の女性に変わっていた。
私が聞きたかったのは、W杯初出場から12年間、どんな思いで過ごしてきたのか。そして、よくサッカーをやめずに続けてくれたと感謝を伝えたかった。
11年女子W杯ドイツ大会。なでしこジャパンは劇的な優勝を遂げ、日本中に希望をもたらした。国民栄誉賞も贈られた輪の中に真奈もいた。が、一人だけ輪から離れた存在にも見えた。
その大会は彼女が「世界のマナ」になるはずの舞台だった。初戦のニュージーランド戦では後半1対1の場面で投入され、鋭いドリブルからフリーキックを奪い、これを宮間あやが直接決めて勝利した。決勝トーナメントのドイツ戦でも後半から出場。同点で突入した延長後半、澤穂希の足元に絶妙なパスを出し、丸山桂里奈の決勝ゴールの起点となった。だが、期待ほどに出場の機会は多くなかった。元々澤を中心に上の世代で構成されたチーム。真奈は苦しい場面でジョーカー役を期待されたに過ぎなかった。真奈に触発され、勢いを取り戻したなでしこは従来通りのメンバーで強豪アメリカをも決勝戦で破った。
大会後、先輩たちとの確執もささやかれた。それが私もずっと気になっていた。12年たって、それとなく真相を尋ねたが、先輩とのあつれきは一切認めなかった。
「澤さんたちが作り上げたチームに、私は入りきれませんでした。すべての面で力が足りなかったと思い知らされました」
静かに繰り返すばかりだった。身長155センチと小さい真奈は、パワフルな選手に当たられたら通用しないともいわれた。事実ドイツ戦で大きな相手に苦労した。が、軽快なステップを踏みドリブル突破を始めたら、相手の方がなす術もない。
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