「これだけ世間の関心が高いだけに…」猿之助再逮捕に向け、東京地検は今どんな捜査をしているか

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近づく再逮捕

 歌舞伎俳優の四代目市川猿之助こと喜熨斗孝彦(きのし・たかひこ=47)容疑者が、母親への自殺ほう助の疑いで逮捕、6月29日に送検されてから1週間が経過した。この間、警視庁捜査1課は、同じく歌舞伎俳優で父親の四代目市川段四郎(本名・喜熨斗弘之)さんの死に、猿之助がどのように関与したのかを捜査している。

「捜査方針は、当初から母親の延子さんへの自殺ほう助を入口にすると決められていました。解剖結果が段四郎さんよりも早く出た事、一緒に死ぬという“依頼”の事実を立証することが難しいため、自殺教唆での立件は難しいなどが理由です。自殺を決意した母親が容易に死ねるよう、睡眠薬を砕いてコップの水に入れ飲ませた。段四郎さんにも同じことをしているわけですから、少なくとも自殺ほう助の容疑は成立すると思います」(社会部記者)

 また、睡眠薬を飲んだ両親の顔に、ビニール袋をかぶせ、養生テープで止めていたことも判明している。

「週刊誌で私に関する記事が出ることを話した後、家族3人で次の世界に行こうということになった」

 猿之助はこのように供述し、事件前日にはスマートフォンで自殺のやり方などを検索した履歴も残されていたことがわかった。警視庁は当初から、実行行為(どうやって死亡したのか)を明確にするために、死因の特定を重視していたという。

「所轄の目黒署ではなく、捜査1課で殺人を担当する刑事を初期から投入したのも、捜査を徹底させるためでした。特に、ビニール袋をかぶせたという本人の供述から、両親が窒息死した可能性も調べました。結果としてビニール袋との因果関係は認められず、死因を向精神薬中毒と断定しました」(警視庁担当記者)

 複数の法医学者だけでなく、薬学のエキスパートなどにも照会を重ねたという。

猿之助事件を見守る元特捜部長

 だが、かねて指摘されている通り、段四郎さんは末期のガンを患っており、要介護の状態だったとされる。そこで、本当に家族会議の結論に同意し、自分の意思で睡眠薬を飲んだのか。ここが捜査の大きな焦点となる。

「送検後は東京地検と協議しながら、再逮捕の被疑事実を検討しています」(前出・記者)

 再逮捕に向けて警視庁の捜査を指揮するだけでなく、起訴するかどうかを決める公訴権を持つ東京地検は、どのように臨む腹づもりなのか。東京地検では刑事部が事件を担当しているが、

「あらゆる方針を決めるのはトップの検事正ですが、現場である刑事部の主任検事から捜査の進め方や証拠関係についての報告を受け、必要な指示や助言を行うのは次席検事です。今の東京地検次席検事は森本宏氏です」(検察担当記者)

 森本次席というと、2017年9月から2年10カ月もの長期にわたった東京地検特捜部長時代、リニア中央新幹線をめぐる談合事件や、日産自動車のカルロス・ゴーン元会長、河井克行元法相夫妻の逮捕など、大型事件を手掛けたことで知られる。特にゴーン元会長の事件では、2018年6月に導入された日本版司法取引(協議・合意制度)を積極的に活用した。

「捜査に対しては常に積極的で、そして頑固です。今回の事件処理でも最終的な結論に誤りがないか判断する立場だけに、何らかの指示は出していると思いますよ。特に段四郎さんは医師が介在する事案です。当時の精神・肉体状況で、猿之助の“みんなで死のう”という提案にどこまで自分の意思を明確に示せたのか。そもそも、猿之助も両親と一緒に本当に死ぬ気があったのか。延子さんは亡くなっていますが、これまでに治療を担当した医師など、広く関係者から話を聞いて捜査を尽くす必要があります。その際、猿之助が嘘をついている、ではなく、猿之助の供述には矛盾や疑問がある、という観点から捜査を進めていくでしょう」(同)

 現場になかったビニール袋や薬の包みは何処へいったのか。「M(原文は実名)愛しているよ」などと書いた猿之助の遺書はあるが、同じく自殺を決意した両親の遺書がないのはなぜか。大病を患っていた段四郎さんは、どのような方法で猿之助に同意の意思を示したのか――謎や疑問は山積している。

「例えば、猿之助の遺書も第三者に見られたくない内容を書いているほどだから、死ぬ覚悟はあったという理屈が成り立つかもしれない。でも、本当に死ぬ気があったのなら、家にある刃物や鈍器などを使えば確実です。段四郎さんの意思表示も、明確な言葉であった可能性は低い。軽くうなずいたのか、アイコンタクトなのか、手を挙げただけなのか。そもそも、そうした反応を示せる状態にあったのかどうか。必要なら経費を払い、裁判で医学関係者に証言してもらう必要もあるでしょう。仮に再逮捕容疑が母親と同じ自殺ほう助になったとしても、こうした全ての疑問、矛盾を解き明かした上での最終判断でなければならないと考えているのです」(同)

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