朝ドラ「らんまん」好調の秘密 万太郎に今後訪れるであろう“悲劇”とは

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 NHK連続テレビ小説「らんまん」の視聴率が高水準を推移している。前作「舞いあがれ!」と前々作「ちむどんどん」の全話平均視聴率がともに個人8%台(世帯15%台)だったのに対し、個人9%強(世帯17%台)を記録している。なぜ、広く観られているのか。その理由を解き明かす(視聴率はビデオリサーチ調べ、関東地区)

分かりやすいのが人気の理由

「らんまん」がよく観られている最大の理由は、分かりやすいストーリーにある。難解なところがない。誰にでも理解できる。

 植物学者・牧野富太郎博士をモデルにした槙野万太郎(神木隆之介・30)が主人公ながら、登場する植物の細かな説明もない。第14週(7月3~7日)のサブタイトルは「ホウライシダ」だったが、属性などの詳細が語られることがなかった。この週に限らず、いつもそうだ。

 万太郎の実家「峰屋」の酒造りについても同じ。詳しい説明はない。第4話で姉の綾(佐久間由衣・28)が、「おなごが蔵に入ったらいかんですき!」と叱られ、第11話で蔵人の幸吉(笠松将・30)から味の調整法を簡単に教わったくらい。植物や酒の解説が少ない分、誰にとっても身近に感じられる人間ドラマに時間が費やされている。

 その人間たちのキャラクター設定もやはり分かりやすい。理解するのが難しい人物がいない。

 万太郎は「植物一筋、社会性はゼロ」、妻・寿恵子(浜辺美枝・22)は「明るく芯の強い永遠の文学少女」、竹雄(志尊淳・28)は「万太郎を応援する心優しきドラえもん的存在」、綾は「気丈に見えるものの、脆いところもある」、東京大学植物学教室教授・田邊彰久(要潤・42)は「プライドが高く、傲慢な男だが、悪人ではない」、大畑印刷所代表・大畑義平(奥田瑛二・73)は「義理人情に厚い、古き良き江戸っ子」。

 作品の質と視聴率が全く別次元であることは説明するまでもないが、視聴者が考えないと理解できない部分のある作品は、評価が高くても視聴率は上がりにくい。

 それを象徴する作品が「おかえりモネ」(2021年度上期、全話平均視聴率は個人9.0%、世帯16.3%)や「舞いあがれ!」(同個人8.9%、世帯15.6%)である。ほかの作品の傾向も同様であることは、過去のデータが証明している。4月8日付本稿でも詳述した。

 考えさせる作品は、出勤準備や朝食の後片付けをしながらの「ながら視聴」に向かないからだろう。話題をさらった「カムカムエヴリバディ」(2021年度下期)ですら、考察が含まれていたためか、視聴率は平凡だった(全話平均は個人9.6%、世帯17.1%)。

 一方で「らんまん」はあざとく視聴率を獲りに行っているかというと、そうではない。それを端的に表すのが第65話におけるタキ(松坂慶子・70)の死である。観る側を惹き付けるのなら、万太郎と綾を臨終に立ち会わせ、号泣させたほうがいい。お涙頂戴である。よくある演出だ。しかし、脚本を書いている長田育恵氏(46)はナレーションで伝える方法を採った。いわゆる「ナレ死」だった。

 その代わりの表現があった。死が迫っていたタキは万太郎たちと、病気を患うヤマザクラの大木を見に行く。万太郎は病気を治すことができなかったが、挿し木をして、未来へと命をつないだ。タキが遺した万太郎もきっと未来をつくる、そう表す比喩だった。

 この場面の中で足腰の衰えたタキが立ち上がる際、万太郎と寿恵子に手を借りる1コマがあった。無敵と思われたタキが1人では思うように動けなくなっていた。自分自身の衰えた祖母や母親の姿と重ね合わせた視聴者もいるのではないか。誰もが老い、死んでゆく。短い映像だったものの、臨終を映すより涙を誘った。

次ページ:1話15分に見せ場と笑いが用意されている

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